危ナイ隣人

「勉強道具も持っていっていい? 部屋に戻ったら、勉強したくなくなるだろうから」



聞くと、ナオくんは納得した様子で頷いてくれた。





「うーん……」



部屋のど真ん中で頭を抱える私の手元に、湯気ののぼるマグカップが置かれた。


甘くて少し香ばしい匂いが鼻腔をくすぐって、顔を上げると、同じようにマグカップを持ったナオくんが私を見下ろしている。



「どうした、そんなツキノワグマみたいな唸り声出して」


「……食べるよ?」


「食べるって、どういうイミで?」



鋭く睨んだつもりだったのに、この少しの距離がそれを緩和してしまったみたい。

ナオくんはニヤニヤとなんだかヤラシー笑みを浮かべて、ラグの上に座る私の左側のソファーに腰を下ろす。



「セクハラはやめときなよ。無意識のうちに110番しちゃうよ」


「冗談だって。茜も、今鍋食べたばっかりで、腹いっぱいだろ」


「そうだねー。本郷さんがくれた白菜、すっごく美味しかったもんねー」



相手にするのが面倒になって、テキトーにあしらう。

白菜が美味しかったのはホントだよ。

一昨日約束して作ったお鍋は、1月の厳しい寒さだって少しだけ和らげてくれた。



「何してんの? 数学?」


「うん。どうしても苦手なんだよね」



今回の実力テストも、数学がネックなんだー。

「ありがと」と断って、ナオくんが淹れてくれたココアをすすりながら、昔からの天敵の名前を口にする。


ココアは、コーヒーが飲めない私のためにナオくんが買ってくれたもの。

ナオくんは甘い飲み物飲まないから、完全に私専用。これは本当にありがたい。