危ナイ隣人

「やべぇ、来る」



たぶん意識の外で吐かれた言葉に、何となく予想がつく。


過去のオンナか……はたまたテキトーに遊んだら向こうは本気だったパターン。

って、私の中のオンナのカンが言ってる。



どっちにしろ入り乱れ過ぎじゃない? オトナの世界。



「私帰ろうか?」



いざこざがあるなら、不必要に巻き込まれたくないし。

そう思って言ったけど、ナオくんは焦点を床に定めたまま、(かぶり)を振った。



「今出たら鉢合わせるかもしれねぇ。それより居留守……いや、今日どこも行かねぇってさっきLI●Eしたわ」


「なんでそこだけ冷静に振り返ってんの!」



私が焦る必要はないはずなのに、あの女の人がこの403号室に向かってきてるって状況が、無意味に私を急かす。


当のナオくんは、ついに頭を抱えてしまった。



「寝てるフリしても起きるまでチャイム鳴らすだろうしなぁ。……玄関で追い返すしかねぇか」


「素直に帰るような人?」


「いや、俺の言うことなんかまったく聞かねぇヒト」


「やばいじゃん。やっぱり私、今からでも帰った方が……」


「ベランダ伝うか? 一応聞くけど、それなんてハリウッド映画?」


「もう、こんな時にふざけないで」



ふいに落ちた沈黙を切り裂くように、再びチャイム音が鳴り響いた。

モニターのとは違う、玄関先の方の音。


ピシッと動きを止めたナオくんは、深いため息をついて扉を見つめた。



「……出たくねぇ」


「居留守はバレるんでしょ?」


「……行ってくる」


「うん、頑張って」



ナオくんがこんなにも焦るってことは、よほど厄介な女の人なのかもしれない。

それとも、他にも何かあるのかな。