危ナイ隣人

「普段はまったく気遣わねぇわりに、肝心な時に強がるヤツだってことは、もう知ってる」



リビングの光が、暗い廊下に漏れている。

逆光の中ナオくんの瞳は静かに輝いていて、そこに映る私は、きっと情けない顔をしている。


引っ越してきてすぐの頃。

大ポカをやってしまった私に、この人は文句を言いながら、セクハラも言いながら、手を差し伸べてくれた。

私の強がりを見抜いた。



なんなの。なんなんだよもう。

普段テキトーなくせに、こういう時に真剣な顔するのは……ずるいよ。



「べつに……気遣ってるつもりはないんだよ、ほんとに。お父さん達はいつも私のこと気にかけてくれるし、大事にしてくれるもん」


「…………」


「ただ私が、自分の足で立っていられる人間になりたいって気負ってるだけ」



ナオくんが怪訝そうに首を傾げる。


そうだよね。意味わかんないよね。


予想通りの反応に、私は思わず笑ってしまう。



「前に言ったでしょ。小学生の時、お兄ちゃんが死んじゃったって」


「……あぁ」


「その時にね、決めたの。お父さんとお母さんには、無駄な心配かけないでいようって。いっぱい……それこそ一生分くらい泣いたから、もう泣かないでいようって」



ナオくんは、眉を寄せて、静かに私の言葉を聴いている。


その心で、何を思ってるのかなんてわからない。



「お兄ちゃんの分まで私がしっかりしなきゃって、あの時、子どもながらにそう思ったんだよね。……まぁ、ナオくんと出会った時は全然しっかりできてなかったけど」