危ナイ隣人

ね、と押すと、お父さんはもう何も言わなかった。



通話終了を知らせる無機質な音が、暗い廊下に静かに響く。


ふうっと息を吐いた時、ガチャっと背後の扉が音を立てて、肩が跳ねた。



「びっくりしたー……。トイレでも行くの?」



我ながらなんて色気のない。

と思いつつ、廊下に出てきたってことは何か目的があるわけで。


お風呂は私が来る前に入ったみたいだし、寝るにはまだ早いし。


一番可能性が高いのはこれかなーと思って言ったんだけど……ナオくんが何も言わないところを見ると、どうやらハズレか?



「どうしたの? ここ邪魔?」



廊下の壁にぺたりと背中をくっつけて、通りやすいようにしているというのに、ナオくんは扉の前で立ち止まったまま動こうとしない。


えー、なにー。デカい人が無意味に立ってると怖いんですけどー!


心の中で叫んでいると、ナオくんの唇がおもむろに動いた。



「なんでそんな気ィ遣ってんの?」



脈絡なく言われて、それでもその言葉は私をチクリと刺した。


そのことを認めながら、踏み込まれたくないからまた笑顔を貼り付ける。



「ナオくんってば、何言ってんの! 私が気ィ遣うようなタイプじゃないって、もう知ってるでしょ?」



やだもう、と井戸端会議中の奥様ばりのトーンで言う。


けど、ナオくんは私をまっすぐに見たまま、深く息を吐いた。