長い廊下を入口へ向かって歩くが、今日は誰とも会わなかった。
きっと誰もが外へ出ているのだろう。
カヤが外に出ると、そこは普段とは比べ物にならないほど大勢の人達が行きかっていた。
頭の布をぎゅっと握りしめながら、カヤはナツナと待ち合わせをしている井戸へと足早に向かった。
昨日器を磨いたあの井戸へ着くと、そこにはナツナが立っていた。
「ナツナ、お待たせ」
「あ、カヤちゃん!」
カヤが手を振りながら近づくと、ナツナが嬉しそうな顔をして駆け寄ってきてくれた。
「さ、行きましょう」
「うん」
きゅっ、と手を握られて、カヤはナツナに引かれる形で歩き出す。
見慣れた屋敷の敷地内には、中心の通り沿いに軒を連ねるようにして露店が並んでいた。
色とりどりの果実、キラキラと輝く飾り物、極彩色の織物が眼を奪い続ける。
人波の中をぎゅうぎゅうに押されながらも、高揚する気分を止める事は出来なかった。
「す、すごいね!」
眼を丸くするカヤに、ナツナが嬉しそうに頷く。
「珍しいものがいっぱいですねえ」
次から次へと眼に飛び込んでくる景色に、カヤは夢中になった。
普段は人の多いところは避けるけれど、今日ばかりはなぜか違った。
たくさんの人が居るからこそ沸き上がる熱気と活気が、堪らなく胸を躍らせるのだ。
キョロキョロとしながら歩き、やがて二人は一軒の露店の前で足を止めた。
「カヤちゃん、見て下さい。あれ、なんでしょうかねえ」
ナツナが指さす先には、こんもりと積まれた赤い果実が。
惹かれるように近づいてみると、露店に立っていた男がカヤ達に声を掛けて来た。
「お嬢ちゃん達、これはすごく珍しい果実なんだよ。頬が落ちるほどうまいから、食べてみな!」
その言葉に、思わず顔を見合わせる。
「……買ってみる?」
「買ってみましょうか。せっかくですし。では、一粒ずつ下さいな」
「毎度!お嬢さん達可愛いから、特別に一粒おまけだ」
「わあい、嬉しいですー。ありがとうですー」
「あ、ありがとうございますっ」
気の良い男からそっと果実を受け取り、カヤたちは露店を離れた。
太陽に透かすようにして、その果実をまじまじと見つめてみる。
怖いくらいに赤いその実には、種らしきものがびっしりと付いていた。
凄く綺麗なのに、どこか不気味ささえ感じる。
「これ、食べれるのかな……」
思わずそう呟くと、ナツナも「うーん」と悩ましい声を出した。
「ああして売ってるくらいなので、大丈夫だとは思うのですが……」
その言葉にそれもそうかと納得する。
「じゃあさ、せーので食べよっか」
「そうですね!」
カヤの提案に、ナツナが頷く。
「せーのっ」
声を合わせ、思い切ってその果実を口の中に放り込んでみた。
恐る恐る咀嚼して一番先に感じたのは、僅かな酸味。
そしてその後に広がったのは、素晴らしい瑞々しさと甘さだった。
「……美味しいっ!」
思わず感嘆の声を上げる。
一体この果実のどこにこんなに水分が隠れていたのかと仰天してしまった。
「本当に!美味しいですねえ、これ!」
「も、もったいなくて一口で食べられないよ、これ」
「間違いないです」
おまけで貰ったその果実を先ほどのように一瞬で食べてしまうのは惜しい気がして、カヤ達はもう一粒の果実を少しずつかじりながら食べた。
すると、ナツナがふと気が付いたように口を開いた。
「あ、カヤちゃん、お口の横に赤いのが付いていますよー。ほら、ここ」
「えっ、ほんと?ありがと……って、ナツナも付いてるよ」
「ええっ、ごめんなさいです。自分で言っておいて、お恥ずかしい……」
焦ったように口元を拭くナツナに、カヤは吹き出した。
「ナツナ、私におっちょこちょいって言ったけど、意外とナツナもおっちょこちょいだね」
「本当ですね。似ているんですね、私達」
二人は、くすくすと肩を揺らして笑い合った。
きっと誰もが外へ出ているのだろう。
カヤが外に出ると、そこは普段とは比べ物にならないほど大勢の人達が行きかっていた。
頭の布をぎゅっと握りしめながら、カヤはナツナと待ち合わせをしている井戸へと足早に向かった。
昨日器を磨いたあの井戸へ着くと、そこにはナツナが立っていた。
「ナツナ、お待たせ」
「あ、カヤちゃん!」
カヤが手を振りながら近づくと、ナツナが嬉しそうな顔をして駆け寄ってきてくれた。
「さ、行きましょう」
「うん」
きゅっ、と手を握られて、カヤはナツナに引かれる形で歩き出す。
見慣れた屋敷の敷地内には、中心の通り沿いに軒を連ねるようにして露店が並んでいた。
色とりどりの果実、キラキラと輝く飾り物、極彩色の織物が眼を奪い続ける。
人波の中をぎゅうぎゅうに押されながらも、高揚する気分を止める事は出来なかった。
「す、すごいね!」
眼を丸くするカヤに、ナツナが嬉しそうに頷く。
「珍しいものがいっぱいですねえ」
次から次へと眼に飛び込んでくる景色に、カヤは夢中になった。
普段は人の多いところは避けるけれど、今日ばかりはなぜか違った。
たくさんの人が居るからこそ沸き上がる熱気と活気が、堪らなく胸を躍らせるのだ。
キョロキョロとしながら歩き、やがて二人は一軒の露店の前で足を止めた。
「カヤちゃん、見て下さい。あれ、なんでしょうかねえ」
ナツナが指さす先には、こんもりと積まれた赤い果実が。
惹かれるように近づいてみると、露店に立っていた男がカヤ達に声を掛けて来た。
「お嬢ちゃん達、これはすごく珍しい果実なんだよ。頬が落ちるほどうまいから、食べてみな!」
その言葉に、思わず顔を見合わせる。
「……買ってみる?」
「買ってみましょうか。せっかくですし。では、一粒ずつ下さいな」
「毎度!お嬢さん達可愛いから、特別に一粒おまけだ」
「わあい、嬉しいですー。ありがとうですー」
「あ、ありがとうございますっ」
気の良い男からそっと果実を受け取り、カヤたちは露店を離れた。
太陽に透かすようにして、その果実をまじまじと見つめてみる。
怖いくらいに赤いその実には、種らしきものがびっしりと付いていた。
凄く綺麗なのに、どこか不気味ささえ感じる。
「これ、食べれるのかな……」
思わずそう呟くと、ナツナも「うーん」と悩ましい声を出した。
「ああして売ってるくらいなので、大丈夫だとは思うのですが……」
その言葉にそれもそうかと納得する。
「じゃあさ、せーので食べよっか」
「そうですね!」
カヤの提案に、ナツナが頷く。
「せーのっ」
声を合わせ、思い切ってその果実を口の中に放り込んでみた。
恐る恐る咀嚼して一番先に感じたのは、僅かな酸味。
そしてその後に広がったのは、素晴らしい瑞々しさと甘さだった。
「……美味しいっ!」
思わず感嘆の声を上げる。
一体この果実のどこにこんなに水分が隠れていたのかと仰天してしまった。
「本当に!美味しいですねえ、これ!」
「も、もったいなくて一口で食べられないよ、これ」
「間違いないです」
おまけで貰ったその果実を先ほどのように一瞬で食べてしまうのは惜しい気がして、カヤ達はもう一粒の果実を少しずつかじりながら食べた。
すると、ナツナがふと気が付いたように口を開いた。
「あ、カヤちゃん、お口の横に赤いのが付いていますよー。ほら、ここ」
「えっ、ほんと?ありがと……って、ナツナも付いてるよ」
「ええっ、ごめんなさいです。自分で言っておいて、お恥ずかしい……」
焦ったように口元を拭くナツナに、カヤは吹き出した。
「ナツナ、私におっちょこちょいって言ったけど、意外とナツナもおっちょこちょいだね」
「本当ですね。似ているんですね、私達」
二人は、くすくすと肩を揺らして笑い合った。
