ビクッとして声の方を向くと、少し離れたところに恰幅の良い女性が立っていた。
腕を組み、口を真一文字に結びながらカヤ達を見つめるその表情は険しい。
数日前、台所の入口で会った女性だった。
今日も今日とて、なんとも迫力のある雰囲気を纏っている。
それは、カヤを怯えさせるには十分だった。
「あー、クシニナさん」
隣でナツナが場にそぐわない呑気な声を出した。
カヤが体を固くしていると、『クシニナ』と呼ばれた女性はスタスタとこちらに歩いてきた。
その鋭い視線がカヤをじろりと厳しく見下ろす。
(嗚呼、どこからどう見ても怒っている……)
やっぱり、自分なんかが器に触れてはいけなかったのだ。
「ご、ごめんなさ……」
カヤが慌てて頭を下げかけた時だった。
「これ、まだ汚れが残っているじゃないか!中途半端な仕事はしなさんな!」
投げつけられた言葉は、予想していたものとは全く違っていた。
「…………へ?」
恐る恐る顔を上げると、クシニナはカヤが洗い終えた器を手に取った。
「ほら、ここ!駄目だよ、しっかり磨いてくれなきゃ」
彼女に器を差し出され、思わず覗き込むと確かに僅かな汚れが残っていた。
「ご、ごめんなさい……」
呆けながら謝ると、クシニナが「ん?」と眉をしかめた。
「あれ?あんた良く見ると台所の娘じゃないね。確か翠様のお世話役の……」
「カヤちゃんって言うのですよ。私のお手伝いをしてくれているのです」
どうやらカヤを台所で働く者だと勘違いしていたらしいクシニナに、ナツナがそう説明してくれた。
この様子だと、数日前にカヤと僅かに会話を交わした事は覚えていなさそうだ。
「ほー……噂通り見事な金の髪だねえ」
布の隙間から見えるカヤの髪を興味深く見つめながら、クシニナはそう言った。
「すいません、勝手にお手伝いをして……」
その視線にドギマギしながら謝ると、クシニナの口元がニッと笑った。
「ありがとね、助かるよ」
けろりとそう言われ、思わずカヤは眼を瞬かせた。
「いいんですか……?私が手伝っても……」
尻すぼみになりながら、そう尋ねる。
クシニナは大きく口を開けて笑い飛ばした。
「ははは、何か問題があるってのかい?使える人手は使っとけって言うだろう。じゃ、悪いけど頼んだよ」
汚れが残る器をカヤに手渡し去っていくその背中をポカンと見つめる。
(……豪快な人だ)
「クシニナさんは台所を仕切っている方なんですよ。たまに怖いですが、お優しい方なんです」
なかなか衝撃から抜け出せないカヤに、ナツナが感情を込めて言う。
その口ぶりから、クシニナの事を慕っている事がよく見て取れた。
まさか、あんな風に自分の存在を笑い飛ばしてくれる人が居るとは思わなかった。
無条件に疎まれるものだとばかり、決めつけていた。
「本当だね」と返したカヤは、再び器磨きに戻る。
さっきよりも力を込めて手を動かし、無意識に口元を綻ばせながら。
どうにか残りの器が半分ほどになってきた頃、ナツナが手を止めて言った。
「これ、徐々に台所へ運んでいった方が良さそうですね。場所も取りますし」
「それもそうだね」
その言葉に頷く。
磨き終えた器は何段にも重なり、危なっかしくぐらぐら揺れる高さになっていた。
腕を組み、口を真一文字に結びながらカヤ達を見つめるその表情は険しい。
数日前、台所の入口で会った女性だった。
今日も今日とて、なんとも迫力のある雰囲気を纏っている。
それは、カヤを怯えさせるには十分だった。
「あー、クシニナさん」
隣でナツナが場にそぐわない呑気な声を出した。
カヤが体を固くしていると、『クシニナ』と呼ばれた女性はスタスタとこちらに歩いてきた。
その鋭い視線がカヤをじろりと厳しく見下ろす。
(嗚呼、どこからどう見ても怒っている……)
やっぱり、自分なんかが器に触れてはいけなかったのだ。
「ご、ごめんなさ……」
カヤが慌てて頭を下げかけた時だった。
「これ、まだ汚れが残っているじゃないか!中途半端な仕事はしなさんな!」
投げつけられた言葉は、予想していたものとは全く違っていた。
「…………へ?」
恐る恐る顔を上げると、クシニナはカヤが洗い終えた器を手に取った。
「ほら、ここ!駄目だよ、しっかり磨いてくれなきゃ」
彼女に器を差し出され、思わず覗き込むと確かに僅かな汚れが残っていた。
「ご、ごめんなさい……」
呆けながら謝ると、クシニナが「ん?」と眉をしかめた。
「あれ?あんた良く見ると台所の娘じゃないね。確か翠様のお世話役の……」
「カヤちゃんって言うのですよ。私のお手伝いをしてくれているのです」
どうやらカヤを台所で働く者だと勘違いしていたらしいクシニナに、ナツナがそう説明してくれた。
この様子だと、数日前にカヤと僅かに会話を交わした事は覚えていなさそうだ。
「ほー……噂通り見事な金の髪だねえ」
布の隙間から見えるカヤの髪を興味深く見つめながら、クシニナはそう言った。
「すいません、勝手にお手伝いをして……」
その視線にドギマギしながら謝ると、クシニナの口元がニッと笑った。
「ありがとね、助かるよ」
けろりとそう言われ、思わずカヤは眼を瞬かせた。
「いいんですか……?私が手伝っても……」
尻すぼみになりながら、そう尋ねる。
クシニナは大きく口を開けて笑い飛ばした。
「ははは、何か問題があるってのかい?使える人手は使っとけって言うだろう。じゃ、悪いけど頼んだよ」
汚れが残る器をカヤに手渡し去っていくその背中をポカンと見つめる。
(……豪快な人だ)
「クシニナさんは台所を仕切っている方なんですよ。たまに怖いですが、お優しい方なんです」
なかなか衝撃から抜け出せないカヤに、ナツナが感情を込めて言う。
その口ぶりから、クシニナの事を慕っている事がよく見て取れた。
まさか、あんな風に自分の存在を笑い飛ばしてくれる人が居るとは思わなかった。
無条件に疎まれるものだとばかり、決めつけていた。
「本当だね」と返したカヤは、再び器磨きに戻る。
さっきよりも力を込めて手を動かし、無意識に口元を綻ばせながら。
どうにか残りの器が半分ほどになってきた頃、ナツナが手を止めて言った。
「これ、徐々に台所へ運んでいった方が良さそうですね。場所も取りますし」
「それもそうだね」
その言葉に頷く。
磨き終えた器は何段にも重なり、危なっかしくぐらぐら揺れる高さになっていた。
