喚起を促すようなあのお告げから、2日が経った。
そよそよと心地の良い風が通り抜ける部屋の中、カヤはひたすら翠の背中を見つめていた。
外からは屋敷の人たちが外で祭事の準備をしている声が風に乗って耳に届く。
明日はいよいよ春の祭事のため、屋敷内はその準備に向けてどこか忙しない空気だった。
翠はと言うと、今日もひたすらに机に向かっていた。
どうやら何日も続いていた土地の振り分け作業が大詰めを迎えているらしく、明日の祭事までには目途を付けようとしているようだ。
タケルはと言うと、祭事の人員配置やらなんやらで外をかけずり回っている。
皆、とても忙しそうだ。
只一人、カヤを除いては。
「…………暇だなあ」
思わずぽつりと呟くと、翠が手を止めた。
「眠そうだな」
「ご、ごめん!」
小さく笑われ、慌てて謝る。
翠は怒ったような様子は見せず、そのまま大きく背伸びをした。
「あー……つっかれた。まあ誰でも眠くなるよな、この天気」
そう言って翠は窓を見やった。
四角く切り取られた空は爽やかな青色に染まっている。
2日前、あんな不吉な予言があったにも関わらず、翠はあまり普段と変わらなかった。
あの後、翠はすぐにタケルを呼んでお告げの内容を伝えた。
二人ともしばし神妙な顔つきをしていたものの、最終的には『招かれざる者を防ぐ事は出来ないので、警戒は怠らないようにしよう』という事で意見が一致したようだった。
そのため翠もタケルもカヤも、いつも通りの日常を送っていた。
『招かれざる者』とは一体なんなのか。
(……もしかして、いやでも、まさか)
あの時なんとなく感じた嫌な予感が、一日に何度もぶり返しては消えていく。
けれどその曖昧な感情を、カヤは翠に悟られないように徹していた。
「なあ、カヤ」
夢うつつに空を見ていたカヤは、翠の声にハッとした。
「はい!」
「ここに居ても暇だろ。ずっと休み無かったし、今日は一日ぶらぶらして来いよ。祭事に向けて色んな品が運ばれてくるから面白いと思うぞ」
いつの間にやらまた机に向かいながら、翠はそう言った。
「え、でも……翠、後で明日のお祈りの最終確認あるんだよね?私がほっつき歩いてのはちょっと……」
「ああ、それはタケルが居れば十分だし気にしなくて大丈夫だ」
「な?」と念を押され、確かに自分がここに居る理由は無いと思った。
というか逆にカヤがここに居る事で、翠の気を散らしてしまうかもしれない。
「分かった。ありがとう。行ってきます」
「念のため布被っていけよ」
「うん」
言われた通りしっかりと頭から布を被ったカヤに、翠は「気を付けてな」と声を掛け、微笑みながら見送ってくれた。
すっかり道順を覚えた屋敷の廊下を、カヤは入口を目指して歩いた。
(……とは言っても、何しよう)
生憎ぶらぶらして来いと言われても、ぶらぶらする方法が分からない。
久しぶりに森にでも行こうかと考えながら、台所の前を通りかかった時だった。
「あ、カヤちゃん!」
弾むような声に呼ばれ、足を止めると、ナツナが台所から出てきた。
そよそよと心地の良い風が通り抜ける部屋の中、カヤはひたすら翠の背中を見つめていた。
外からは屋敷の人たちが外で祭事の準備をしている声が風に乗って耳に届く。
明日はいよいよ春の祭事のため、屋敷内はその準備に向けてどこか忙しない空気だった。
翠はと言うと、今日もひたすらに机に向かっていた。
どうやら何日も続いていた土地の振り分け作業が大詰めを迎えているらしく、明日の祭事までには目途を付けようとしているようだ。
タケルはと言うと、祭事の人員配置やらなんやらで外をかけずり回っている。
皆、とても忙しそうだ。
只一人、カヤを除いては。
「…………暇だなあ」
思わずぽつりと呟くと、翠が手を止めた。
「眠そうだな」
「ご、ごめん!」
小さく笑われ、慌てて謝る。
翠は怒ったような様子は見せず、そのまま大きく背伸びをした。
「あー……つっかれた。まあ誰でも眠くなるよな、この天気」
そう言って翠は窓を見やった。
四角く切り取られた空は爽やかな青色に染まっている。
2日前、あんな不吉な予言があったにも関わらず、翠はあまり普段と変わらなかった。
あの後、翠はすぐにタケルを呼んでお告げの内容を伝えた。
二人ともしばし神妙な顔つきをしていたものの、最終的には『招かれざる者を防ぐ事は出来ないので、警戒は怠らないようにしよう』という事で意見が一致したようだった。
そのため翠もタケルもカヤも、いつも通りの日常を送っていた。
『招かれざる者』とは一体なんなのか。
(……もしかして、いやでも、まさか)
あの時なんとなく感じた嫌な予感が、一日に何度もぶり返しては消えていく。
けれどその曖昧な感情を、カヤは翠に悟られないように徹していた。
「なあ、カヤ」
夢うつつに空を見ていたカヤは、翠の声にハッとした。
「はい!」
「ここに居ても暇だろ。ずっと休み無かったし、今日は一日ぶらぶらして来いよ。祭事に向けて色んな品が運ばれてくるから面白いと思うぞ」
いつの間にやらまた机に向かいながら、翠はそう言った。
「え、でも……翠、後で明日のお祈りの最終確認あるんだよね?私がほっつき歩いてのはちょっと……」
「ああ、それはタケルが居れば十分だし気にしなくて大丈夫だ」
「な?」と念を押され、確かに自分がここに居る理由は無いと思った。
というか逆にカヤがここに居る事で、翠の気を散らしてしまうかもしれない。
「分かった。ありがとう。行ってきます」
「念のため布被っていけよ」
「うん」
言われた通りしっかりと頭から布を被ったカヤに、翠は「気を付けてな」と声を掛け、微笑みながら見送ってくれた。
すっかり道順を覚えた屋敷の廊下を、カヤは入口を目指して歩いた。
(……とは言っても、何しよう)
生憎ぶらぶらして来いと言われても、ぶらぶらする方法が分からない。
久しぶりに森にでも行こうかと考えながら、台所の前を通りかかった時だった。
「あ、カヤちゃん!」
弾むような声に呼ばれ、足を止めると、ナツナが台所から出てきた。