国中を欺き続けてきた翠を、人々はどう思うだろうか。

ナツナとユタは寛大に受け止めてくれたが、民はおろか、あの厳しい高官達が二人のような反応を見せてくれるとも思えない。


最悪、翠はこのまま神官の座を追われるだろう――――――

そんな考えがよぎったが、カヤは頭を振ってそれを締め出した。


「ねえ、翠。そうしたら一緒に旅に出ようよ」

少しでも彼の不安を取り除きたくて、カヤは精一杯に笑った。

「昔、約束したの覚えてる?大陸に行こうって。蒼月と三人で、何処までも旅しようよ。きっと楽しいよ」

もう夢物語では無い。

私達は、きっとどこまでだって行ける。

透き通る夜明けの中を、咲き誇る花の道を、降り注ぐ星の下を、三人で笑い合いながら。


「どうあっても、私は翠を信じるからね」

だから、もう一度だけ約束させて。

私は永遠に、貴方の隣に居る。


「……そうだな」

翠が泣きそうな顔で笑った。


「カヤと蒼月が居るなら、何処に居たって幸せだ」


――――――そうだよね、と返した声は涙で少し震えてしまった。




「おや」

二人の前を進んでいたタケルが、ピタリと馬を止めた。

「どうした?」

翠が声を掛けた。

「何やら村が騒がしいような……」

その言葉に、二人は前方に眼を凝らした。

道の先に懐かしい門が見える。村の入口だ。

確かにタケルの言う通り、そちらの方角から風に乗ってザワザワと多くの声が聞こえてくる。


「何かあったのかもしれない。行くぞ、タケル」

「はい!」

すぐに真剣な表情になった翠が馬の歩みを速めた。

門まで残っていた道をほんの一瞬で駆け抜け、翠とカヤは勢いよく門をくぐった。



「―――――……翠様がお帰りになられた!」

そんな声が高らかに響き渡ったと同時、翠がピタリと馬を止めた。

カヤは目の前の光景に言葉を失った。

屋敷まで一直線に続く道の両端に、まるでカヤ達を迎えるかのようにして多くの人々が立ち並んでいたのだ。

人々はカヤ達が現れたのを見ると、次々に地面に膝を付き、仰々しく頭を垂れていく。

それは奇妙な事に、かつての『翠様』を敬仰していた民の姿と全く同じであった。


「え……え……?」

やがて目の前に居た民達が一人残らず跪いた頃、カヤは混乱しながら翠を振り向いた。

だが翠は、カヤ以上に訳が分からない、という顔で目の前の光景を眺めていた。


どうして良いのか分からずオロオロしていると、

「……桂?」

不意に翠がそう口にした。