【完】絶えうるなら、琥珀の隙間

カヤと翠は顔を見合わせた。

カヤ達からすれば、国の中枢とも言える翠の屋敷が、跡形も無く崩れ落ちてしまったようなものだ。

それに被害は砦だけでは無い。

きっと川沿いの村も大きな打撃を受けているだろう。

果たしてこの国は、元通りに戻れるのだろうか――――――そう危惧していると、隣に立っていた翠が静かに進み出たので、カヤは驚いた。


「ハヤセミ殿。ミナト」

翠が歩み寄ると、二人は顔を上げた。

「我が国は、そなた達の国の復興に手を貸そう」

翠言った途端、ハヤセミが厳しく眼を細めた。

「……その代わりに和平の盟約を交わせと?」

「そうだ」

翠がサラリと答えた。

「だが盟約を締結して頂けるのなら、我が国は全力で復興に尽力しよう。如何する?」

ハヤセミは黙って翠を見つめた。

翠はその視線を受けて立つかのように、静かにハヤセミを見据え続ける。

カヤは、ハラハラと二人の様子を見守った。

やがてその沈黙を破ったのは、ハヤセミの大きな溜息だった。

「……分かりました。盟約を結びましょう」

確かにハヤセミの口から出てきたその言葉に、カヤは耳を疑った。

まさか、あれほど断り続けてきた盟約をハヤセミが結ぶとは。一体どういう風の吹き回しなのだろうか。


カヤが唖然としていると、

「兄上、ご決断頂きありがとうございます!」

ミナトが勢いよく頭を下げた。

深々と腰を折ったミナトを、ハヤセミが一瞥する。

「……悔しいが完敗だからな」

ぼそり、と呟かれた言葉に、ミナトが不思議そうに顔を上げた。

「え?」

ハヤセミは、くるりとミナトに背を向けると、再び眼下の砦を見下ろした。

朝の太陽が山々の影から顔を覗かせ、ハヤセミの影を長く伸ばす。

透明な秋風が吹き、泥だらけのハヤセミの衣を軽やかに揺らした。


「ミズノエ」

不意にハヤセミが呼んだ。

「はい。なんでしょうか」

「私はこのまま王位を追われるだろうが、父上が守ったこの国を必ず立て直して見せるぞ。砦も、もう一度再建して見せる」

「はい」

頷くミナトは、真剣な表情でハヤセミの背中を見つめている。