【完】絶えうるなら、琥珀の隙間

「カヤ、どうした!」

カヤの悲鳴を聞いたためか、翠が外から叫んだ。

「何でもない!気にしないで!」

外の作業の邪魔をしたくなかったカヤは、すぐにそう返した。

カヤは、すぐにハヤセミの元へ戻ると、懲りずに岩を掴んだ。

「無理です!やめておきなさい!」

ハヤセミが何かを言っていたが、もう聞いていられる余裕は無かった。

「く、ぅっ……!」

足を踏ん張り、身体中の力を両手に込める。

指先に鋭い痛みが走るが、込めた力が、その痛みすらも搔き消した。

「っ、うぅ……!」

こんなにもあらんかぎりの力を込めているというのに、それでも岩は動かない。

激しい痛みと、着々と上がっていく水位に激しい焦りを抱きながら、カヤは何度も何度も岩を持ち上げようとし、そして手を滑らせては、後ろに倒れ込んだ。



「っ止めろと言っているでしょう!」

何度目か分からない尻もちの後、遂にハヤセミが怒鳴った。

「もう良い、止めなさい!さっさと離れろ!」

疲労しきって、ぐったりと地面に手を付いているカヤを、ハヤセミは怒った様な眼で見つめている。



(……痛い)

もう隙間が無いほどに手がズタズタになった気がした。

強張り、震える指先を見下ろしていたカヤは、ふと自分の手の向こう側にある瓦礫に眼が向いた。

何やら金色が見える―――――無意識のうちにその瓦礫を拾い上げたカヤは、息を呑んだ。


それは、砦の壁画の一部だった。

かつてこの国に舞い降りたと言われる金髪の神が描かれている壁画。

カヤが手にしたのは、その神の横顔部分だった。


全ての始まりの物語。カヤの人生を狂わせた物語。

けれどこれが無ければ、心から愛する人に出会えなかった物語。



「……め、ない……」

カヤは、ふらふらとよろめきながら、再び力の出ない指で岩を持ちあげた。

「絶対に止めないっ……!」

恨んでいない。呪ってもいない。

なぜならカヤは今、胸を張って幸せだと言えるのだ。

翠に出会えた。蒼月に出会えた。

それだけじゃない。

感謝してもしきれないほど、たくさんの優しい人達に出会えた。


「……ミナトが昔言ってましたっ……壁画に落書きして叱られたミナトを、貴方が庇った事があるって……!」


人の優しさは、誰かを幸せにする。

その幸せを知らない事は、とても不幸だ。

カヤはそれを大切な人達に教えて貰った。


「ミナトは、貴方は優しい人だって言った!大事だって言った!ミナトが信じるなら、私も貴方を信じる!絶対にミナトに会わせる!だから此処を一緒に出て、ちゃんとミナトに言って!」


ハヤセミは、かつてのカヤと同じだ。

生身の心に触れられるのが怖くて、他人を拒絶し、殻に閉じこもる。