【完】絶えうるなら、琥珀の隙間

見えなかったのではない。

きっとカヤが、見ようとしなかっただけなのかもしれない。


そして今更ながらに気が付くのだ。


(この人は、ただミナトが大切なだけだったのか)

幾重にも重なった感情の中心。

そこには、ただただ純粋な意志だけが在り続けていた。






「――――……カヤ!聞こえるか、カヤ!」

突如外から聞こえてきた声に、カヤは息を呑んだ。

翠の声だ。間違いなかった。

「翠!」

嬉しさと共に壁に駆け寄れば、分厚い瓦礫の向こう側に、複数人の人間の気配を感じた。

どうやらミナトが人手を集めてきてくれたらしい。

「今、外から掘り出す!もう少し辛抱してくれ!」

「うん、分かった!」

直後、外側からガキィン!という固い音が聞こえてきた。

翠達が穴を開けようとしてくれているらしい。

危なくないように、カヤが後ろに下がった時だった。

ガラガラガラッ―――――そんな音と共に、再び天井が崩れ始めた。

カヤは蒼月を抱き込みながら崩れが収まるのを待った。

しばらくすると辺りは再び静けさを取り戻したが、カヤはこの脆い空間が、今にも息絶えようとしているのだと思わざるを得なかった。


「クンリク様。怪我をしたくなければ隅の方に居た方が良いですよ」

ハヤセミが言った。

彼は今や最大限に顔を持ち上げていたが、水面は唇の真下にまで及んでいる。

このままでは、この男はミナトの助けが来る前に死んでしまうだろう。

迷っている暇は無かった。カヤは決心した。



「蒼月、ここで良い子にしててね」

カヤは水面から顔を出している岩の上に蒼月をそっと座らせた。

そして着ていた婚礼用のヒラヒラとした衣装を脱ぎ捨てながら、ハヤセミの元へ歩みを進めた。

「一体何を……?」

ハヤセミは当惑の表情でカヤを見上げている。

カヤは黙ったまま、ハヤセミの足を挟んでいる岩に触れた。

かなり大きい上に、岩の上に更に瓦礫が積み重なっているせいで、少し押したくらいではビクともしない。

カヤは水の中に手を入れると、ハヤセミの足が潜り込んでいる岩の底部分を手探りで探り当てた。

ふう、と息を出し切り、そしてぐっ、と全身に力を入れる。

渾身の力で持ち上げた岩は、まるで動く気配を見せなかった。

それでもカヤはどうにか岩を退かそうと歯を食いしばる。

「クンリク様ッ……!止めなさい、貴女の力では無理です!」

「やめ、ません……!」

声を絞り出した時、岩を掴んでいた手が、ずるりと滑った。

「きゃあ!」

バシャン!と激しい水飛沫を上げ、カヤは後方に尻もちを付いた。

両手に染みるような痛みを感じた。

見れば、岩に引っかかったのか爪が割れて指先に血が滲んでいた。