【完】絶えうるなら、琥珀の隙間

驚いたカヤの顔を見て、ハヤセミがハッとしたような表情となった。

彼は、まるで怒鳴ってしまった自分を後悔するかのような溜息を付くと、やがて静かに口を開いた。

「……厳しいお方だったのですよ、先々代の王は。神の娘と、たかが側近の血筋の者が交わって良い筈が無い。それを止めるためなら、あのお方は躊躇なくミズノエを葬りましたよ」

ハヤセミが、こんな事を話し出すとは夢にも思っていなかった。

カヤは驚きつつも、同時に頭の片隅でハヤセミの話に納得をした。

確かに彼の言う通り、弥依彦の父親である先々代の王は、王としての手腕は見事だったが、時に血も涙も無い冷徹な人間だった。

あの頃はそこまで考えが至らなかったが、確かにあの王ならば、ミズノが身分を弁えない発言をしたと見なし、呆気なく殺すかもしれない。


「ミズノエを助けるためには、王の前であいつを殺す振りをしなければならなかったんです。急所は外しましたよ、勿論」

固い声のまま、ハヤセミは話しを続ける。

「とは言え、万が一にもミズノエが生きていると知られれば、大変な事になります。だから私は、あいつの存在を隠すために、翠様の国に潜り込ませたんですよ。そして王が崩御なさったら、ミズノエを国に戻し、貴女と添い遂げさせるつもりでした。まあ、全て無駄でしたがね」

付け加えるような言葉は、酷く投げやりだった。

ハヤセミらしからぬ物言いに戸惑いながら、カヤは恐る恐る口を開いた。

「じゃあ……翠を嫁にしようとしたのは何故なの?」

「翠様が嫁に来れば、おのずと貴女もそれに着いて戻ってくると思っただけです。どうにも翠様が、貴女を手放そうとしなかったので」

ハヤセミは、忌々しそうに鼻を鳴らした。

「確かに美しい女性……ああもう、違う……美しい男性だとは思いますが、占いだとかお告げだとか全く興味無いですし、貴女さえ戻って来れば、正直どうだって良かったんです」

ハヤセミはそこで言葉を切ると、大きな溜息を付いた。

「……全く、長年の計画が水の泡ですよ。やってくれましたね」

口調は全く異なるのに、それはまるでぶつくさ文句を垂れる時のミナトと全く同じ声の調子だった。

それに気が付いてしまった途端、カヤは自分の心に奇妙な感情が湧いたのを感じた。


「ハヤセミ……」

彼に対して、何を感じたのだろう。

上手く言葉には出来なかった。

ハヤセミを嫌いだと言う感情が綺麗に拭い去られたわけでも無かった。


ただ、そんな事はごく当たり前の事なのだが―――――目の前に居る人物がカヤ達と何も変わらない、普通の人間なのだと分かった。