【完】絶えうるなら、琥珀の隙間

翠が生きていたと分かった時、あんなにも幸福だったと言うのに。

それが今や、こんな暗闇に閉じ込められ、いつ崩れ落ちてくる岩に潰されるか分からない恐怖に襲われている。

このまま死んでしまうかもしれない。二度と翠に会えないかもしれない。

こんな状況になったのはハヤセミのせいなのに、よくもそんな事を!


否――――翠の事だけではない。

「全部貴方のせいでしょう!?とと様も、かか様も、ミズノエも、貴方が居なければ死ななかったのにっ……!」

すべてだ。すべて、この男が狂わせたのだ。


半狂乱になって喚いた声が、暗闇に尾を引いた。

叫びすぎたせいで肩で息をしているカヤを、ハヤセミは静かに見据えている。

「貴女の両親を殺したのは、私では無く先々代の王です。それにミズノエは死んでいないでしょう?」

あまりにも冷静すぎる返答を投げ返され、反比例するようにカヤの怒りが募る。

「っじゃあ……!」

貴方は何も悪くないって言うの―――――と、言い返そうとした時、ふ、とハヤセミの眼が伏せられた。


「ですが、まあ……確かにこの状況は、私が原因ではありますね」


カヤは驚いて口を閉じた。

なぜならあのハヤセミが、よもや己の非を認めたように聞こえたのだ。

一瞬動揺したカヤだったが、しかし直後に湧いたのは、先程を大きく上回るような激しい怒りだった。


(一体なんなの……!?)

どういうつもりで、そんな弱気とも取れる発言を吐いたと言うのだ。

まさか本当にこの男が申し訳ないと思うはずが無い。

だとしたら――――きっとカヤを油断させるつもりなのだ。

カヤを安心させて、足を挟んでいる岩を退かせて、それから掌をひっくり返して、カヤ達を殺すのだ。

この男は、それくらい平然とやってのける。

幼いミナトの腹を貫いた時と、全く同じように、飄々と。



「……私が憎くて憎くて堪らない、と言う顔ですね」

カヤの怒りの表情を見て、ハヤセミが口元を吊り上げた。

「まあ、貴女が翠様と恋仲だと知らなかったとは言え、私はあなた方を引き裂くような真似を知らず知らずしてきたわけですからね。恨まれて当然でしょう」

カヤは言葉を返さなかった。

何かを言えば、この男に会話を誘導される気がした。


「絶好の機会ではありませんか、クンリク様。今度こそ私を殺せますよ」

そんなカヤに、ハヤセミが朗らかに笑った。


「……は……?何言って……」

その声色と科白が噛みあっていなさすぎて、沈黙を貫こうと決めていたはずのカヤは、意志と関係無く口を開いてしまった。