果たして自分の居る場所が砦なのかどうかすらも分からなかった。
「……此処、何処なんだろう……」
失意と共に呟いた時、
「――――……恐らく砦の地下部分です」
背後から聞こえてきた声に、カヤは飛び上がった。
「ひっ!」
咄嗟に声のした方を振り向く。
今の今まで全く気が付かなかったが、カヤから少し離れたところにある瓦礫の山の麓に、ぼんやりと人影らしきものが見えた。
心臓がバンバンと肋骨を叩くのを感じながら、カヤは暗闇に眼を凝らし、そして驚愕した。
「ハ、ヤセミッ……?」
そこに居たのは、今もっとも此処に居て欲しくない人物であった。
ハヤセミは、何故か地面にうつ伏せになりながら、こちらを静かに見つめている。
「な、なんで此処にっ……!」
思わず後ずさったカヤの背中は、すぐに瓦礫にぶつかった。
それでもカヤは、少しでもハヤセミから離れたくて、無駄とも分かっていながらもズリズリと後退する。
そんなカヤを見て、ハヤセミが呆れたように息を吐いた。
「……そんなに警戒せずとも、これ以上貴女には近づけませんが」
その言葉に、カヤは更に眼を凝らした。
なぜそんな所にでうつ伏せに寝転がっているのかと思ったが、良く見ればハヤセミの左足は瓦礫の山の中に入り込んでいた。
どうやら足が挟まれて動けないらしい。
「……怪我……してるの?」
その様子では、どう見ても足が潰れている。
恐る恐る尋ねれば、
「いえ、良い具合に隙間が出来ているようなので特には。ただ、どう頑張っても抜けそうにはありませんが」
つらつらとした言葉が返ってきた。
潰れた足を想像してぞっとしていたカヤは、少しばかり安堵した。
とは言え、ハヤセミが動けなくなってしまっているのは事実だ。
助けるべきなのか、このまま知らんふりをするべきなのか―――――カヤが考えあぐねていると、ハヤセミが冷たく言った。
「さっさと行ったらどうです?その御子がミズノエの子供で無いなら、あなた方は不要です。さっさと消えて下さい」
粗雑とも言える言葉に、カヤは頬を引き攣らせる。
まるでミナトは何の関係も無かったカヤ達を、虫ケラとでも思っているような物言いだ。
怒りで言葉が出ないカヤに、ハヤセミがふっ、と笑う。
「ああ、申し訳ありません。消えたくても、此処から出られないのでしたね」
蔑むような嘲笑いに、カヤはカッと頭に血が昇ったのを感じた。
「っ誰のせいで、こんな目に合ってると思って……!」
わなわなと震える手は、気が付けば先ほど拾い上げた短剣を握り締めていた。
