【完】絶えうるなら、琥珀の隙間

「ご、ごめんっ……」

謝りながらぐしぐしと涙を拭ったカヤは、ふと二人を見つめた。

「でも、どうして助かったの……?あんなに酷い流れだったのに……泳いだの?」

「いや、まさか」

翠が肩を竦めた。

「律と飛び降りた直後、咄嗟に崖から生えてた枝に捕まったんだ。兵は俺たちが川に落ちたと思ったみたいだけど、どうにかぶら下がりながら耐えてな」

「そうだったの……」

「律が重いのなんのって。何度か落としたくなったよ」

冗談めいた言葉に、律が翠をジロリと睨み付けた。

「お前の腕力が無さすぎるんだ。あと私の身体つきが豊満なだけだ」

「良く言うよ」

ふっ、と笑った翠は、カヤの頭をポン、と撫でるとスッとその場を離れた。

翠が向かったのは、近くに立っていた弥依彦の元だった。

「弥依彦殿」

翠が声を掛けると、弥依彦がビクリと肩を揺らした。

「な、なんだよ……」

たじたじとしている弥依彦は、次の瞬間「なっ……!」と叫んだ。

驚く事に、翠が弥依彦に向かって膝を折ったのだ。

「息子の命を救ってくれた事、深く感謝する。それから――――先ほどの民への言葉、大変にご立派であった」

地に片膝を付きながらそう述べた翠に、弥依彦は慌てふためいたように首を振る。

「べっ……別に、そんな大層な事はしてないぞ!ただ僕は……王の血筋の者として、放っておけなかっただけで……!」

「己の利を考えず、民を一番に考える王こそが、良い君主たるものだ。私も同じ立場の者として、見習わねばな」

そう言って笑った翠に、弥依彦は言葉を失ったように黙り込んだ。

カヤは俯く弥依彦に近づくと、深く頭を下げた。

「ありがとう、弥依彦。それからごめん。私、弥依彦のしようとしてる事に全然気が付かなくて……」

感謝の気持ちと同じくらい、カヤの心には弥依彦に対する申し訳なさが募っていた。

てっきり裏切られたものだとばかり思っていたのだ。

ちゃんと弥依彦を信じれ切れなかった己を恥じるしか無かった。


「……別に、気が付かなくて当然だろ。と言うか、お前に気が付かれるくらいならハヤセミにも気が付かれてるし」

ぼそぼそと小さな声で弥依彦が言った時、

「ひこー、抱っこ!」

カヤの腕の中に居た蒼月が、そんな声を上げた。


「ええ?今かよ?」

弥依彦が眉を寄せた。

「だっこ!」

「仕方ないな……少しだけだぞ」

弥依彦は不服そうな顔をしながらも、ヒョイと蒼月を受け取り、慣れた手つきで抱いた。

「ありがとねえー、ひこー」

蒼月が弥依彦の頬っぺたにペチペチ触れながら言った。