「―――――我が弟ミズノエ、そして我が国の宝であるクンリク様の婚礼の儀にご参加いただき、心より感謝する」

見上げるような天井の聖堂に、ハヤセミの明朗な声が響き渡った。

砦の中でも圧倒的な広さを誇るこの部屋は、天然の洞窟で形成されている聖堂だ。

左右の石壁が天井に向かうにつれて、徐々に狭まる形状になっており、荒々しい岩盤がこちらに迫りくるような錯覚にも陥る。

聖堂の一番奥は広い祭壇が一段上がって設置されており、そこにはカヤ、ミナト、そしてハヤセミの姿があった。


カヤの目の前には、ズラリと並ぶ人、人、人。

身なりから察するに、恐らく婚姻の儀に出席するに値するような、それなりの位の者達が大半のようだ。

そしてそれに交じり、かなりの数の兵達がそこら中に配備されている。


この聖堂は、カヤが幼い頃から毎日のようにお祈りを唱えていた場所だ。

普段はカヤ以外に王と祈祷師と、僅かばかりの兵しか居なかったため、この場所がこんなにも人で埋め尽くされているのを見るのは初めてだった。


聖堂中が儀式特有の厳かな空気に包まれる中、カヤはどうにか気力を振り絞って立っていた。


ハヤセミとの決着に負けたカヤは、あの後半分拘束された状態で、身支度を整えさせられた。

無理矢理に花嫁衣裳に着替えさせられ、髪を複雑に結われ、慣れぬ紅をさされ、しかも始終暴れていたため、ようやく支度が終わった頃には、夕刻になっていた、

既に参列者は待機しているとの事で、己の恰好を確認する暇すら無く、あれよあれよの内にこの祭壇に立たされ、そして今に至る。


カヤとミナトは、祭壇の上に寄り添うようにして立たされ、その前方には参列者達を見下ろすようにハヤセミが立っている。

祭壇の横手側には、この国の高官達が顔を揃えてズラリと着席していた。

その一番上座には、ハヤセミの第一側近に就任した弥依彦が何食わぬ顔で座っているが、カヤとは一度たりとも言葉を交わす事はおろか、視線すら交わしていない。


カヤは、チラリと己の右手側を見やった。

婚姻用の正装を身に纏っているミナトは、口を開けば今にも吐いてしまうのでは、と言うほどに酷い顔だ。

それはカヤも同じだった。

込み上げてくる胃の不快感に耐えながらも、それでもカヤとミナトが抵抗もせずに大人しく突っ立っているのには、理由があった。