「今すぐじゃないって……それは、どういう――――?」
「貴女の祝言が無事に終了してから、です」
ぽかん、と空いた口が塞がらなかった。
カヤは、蒼月までをも連れ、全てを打ち捨てる覚悟で再びこの砦に戻ってきたのだ。
それで十分なはずなのに、この男は一体どれだけカヤに祝言を挙げさせたいのだろう?
そこにそんなに大きな意味があるとは到底思えないのだが――――いや、しかしこの男の事だ。何か裏があるのかもしれない。
そう考えたカヤは、無駄な抵抗をしない方が良いだろうと考え、ひとまず質問を口にした。
「それはいつ頃になるの?」
「幸いにも準備はほとんど済んでおります。本日の夜にでも婚姻の儀を初めて、それが終わった頃なので……まあ、真夜中近くでしょうかね」
「っそれじゃ遅いの!」
カヤは噛み付くように言った。
真夜中?冗談では無い。
そんなに悠長にしていては、川が氾濫してしまうではないか。
「婚姻の儀でも何だってする!約束は破らない!だからお願い、兵達をっ……」
「くどいですね」
カヤの訴えを、ハヤセミが冷ややかに一刀両断した。
「そもそも『大雨で川が氾濫する』などと言った戯言、何処の誰が言い出した事なのですか?」
ひやりとした目付きでカヤを一瞥しながら、ハヤセミは言う。
「翠様が仰ったならともかく……あの方のお力は数年前に失われたと聞いています。今、翠様の代わりにお告げを口に出来る者は居ないはずでしょう。そんな確証も無いような言葉を信じろと言われても、無理な話ですね」
正に痛い所を突かれた。
ハヤセミは蒼月がカヤとミナトの子供だと信じている。
そんな男を、一体どのような嘘を付けば納得させられるのだろうか。
「クンリク様。そこまで仰るのならどうか教えて下さいませんか?誰が言い出した事なのですか?」
黙り込むしか無いカヤを、ハヤセミは更に追い詰めてくる。
ああ、こんな時翠なら上手く切り抜けるだろうに――――――そう思うけれど、此処にはもう頼れる人は居ない。
「そ、それは……」
「それは?」
何かを言おうとしたが、絶望的なほどに考えが纏まらない。
言葉に詰まり、遂に俯いてしまった時、唐突に背後から大声が聞こえた。
「――――ぼ、僕だ!」
そんな声に、カヤは仰天しながら振り向いた。
ハヤセミに気を取られすぎて存在を忘れてしまっていたが、高らかに宣言をしたのは、まさかの弥依彦だった。
「……ああ、そういえば貴方もいらっしゃったのですね」
呆れたような、うざったそうな声色で、ハヤセミが言った。
「まさか生きているとは思いませんでしたよ。しかもクンリク様と共に現れるとはね……何処でどうやって生きていらっしゃったのです?」
「翠に弟子入りしていたんだ!」
その言葉にカヤは更にギョッとした。
弟子入り?一体全体、弥依彦は何を言い出すのだ?
そんな嘘を付いた所で、ハヤセミを納得させられるように事を運べるとは到底思えないのに。
「貴女の祝言が無事に終了してから、です」
ぽかん、と空いた口が塞がらなかった。
カヤは、蒼月までをも連れ、全てを打ち捨てる覚悟で再びこの砦に戻ってきたのだ。
それで十分なはずなのに、この男は一体どれだけカヤに祝言を挙げさせたいのだろう?
そこにそんなに大きな意味があるとは到底思えないのだが――――いや、しかしこの男の事だ。何か裏があるのかもしれない。
そう考えたカヤは、無駄な抵抗をしない方が良いだろうと考え、ひとまず質問を口にした。
「それはいつ頃になるの?」
「幸いにも準備はほとんど済んでおります。本日の夜にでも婚姻の儀を初めて、それが終わった頃なので……まあ、真夜中近くでしょうかね」
「っそれじゃ遅いの!」
カヤは噛み付くように言った。
真夜中?冗談では無い。
そんなに悠長にしていては、川が氾濫してしまうではないか。
「婚姻の儀でも何だってする!約束は破らない!だからお願い、兵達をっ……」
「くどいですね」
カヤの訴えを、ハヤセミが冷ややかに一刀両断した。
「そもそも『大雨で川が氾濫する』などと言った戯言、何処の誰が言い出した事なのですか?」
ひやりとした目付きでカヤを一瞥しながら、ハヤセミは言う。
「翠様が仰ったならともかく……あの方のお力は数年前に失われたと聞いています。今、翠様の代わりにお告げを口に出来る者は居ないはずでしょう。そんな確証も無いような言葉を信じろと言われても、無理な話ですね」
正に痛い所を突かれた。
ハヤセミは蒼月がカヤとミナトの子供だと信じている。
そんな男を、一体どのような嘘を付けば納得させられるのだろうか。
「クンリク様。そこまで仰るのならどうか教えて下さいませんか?誰が言い出した事なのですか?」
黙り込むしか無いカヤを、ハヤセミは更に追い詰めてくる。
ああ、こんな時翠なら上手く切り抜けるだろうに――――――そう思うけれど、此処にはもう頼れる人は居ない。
「そ、それは……」
「それは?」
何かを言おうとしたが、絶望的なほどに考えが纏まらない。
言葉に詰まり、遂に俯いてしまった時、唐突に背後から大声が聞こえた。
「――――ぼ、僕だ!」
そんな声に、カヤは仰天しながら振り向いた。
ハヤセミに気を取られすぎて存在を忘れてしまっていたが、高らかに宣言をしたのは、まさかの弥依彦だった。
「……ああ、そういえば貴方もいらっしゃったのですね」
呆れたような、うざったそうな声色で、ハヤセミが言った。
「まさか生きているとは思いませんでしたよ。しかもクンリク様と共に現れるとはね……何処でどうやって生きていらっしゃったのです?」
「翠に弟子入りしていたんだ!」
その言葉にカヤは更にギョッとした。
弟子入り?一体全体、弥依彦は何を言い出すのだ?
そんな嘘を付いた所で、ハヤセミを納得させられるように事を運べるとは到底思えないのに。