【完】絶えうるなら、琥珀の隙間

「だからお前は俺を認めろ!そうやって支え合って生きて行けば良いだろ!これからも、ずっと!死ぬまで!」

翠の頬を、一筋の涙が伝った。

滴った綺麗な雫は律の頬に落ち、そして、彼女の眼から溢れ出ている涙と、当然のように交じり合う。

「……っ、」

律が声を詰まらせた。

ぐっ、と何かを押さえるように息を吸って、そして彼女は、ふっと力が抜けたように笑う。

「……ほんと、に、馬鹿な弟を、持ったものだな……」

仕方無さそうな笑みを見せた律に、カヤも翠も笑みを浮かべた。


カヤの手を挟んで確かに重なっている二人の掌が、とても嬉しかった。

混ざる事の無かった色が、今ようやく美しく同化したのだ。

十数年もの時を超えて、お母様の望み通りに――――――





「――――……探せ!どこかに居るはずだ!」

バタバタバタ!と言う激しい足音と共に、そんな怒声が壁の向こう側から聞こえてきた。

カヤは身体を固くした。
恐らく、砦の兵達がカヤ達をしらみつぶしに探し回っているのだろう。


「翠、聞けっ……!」

律が息も絶え絶えに言った。

「このままじゃ、いずれ見つかる……それにっ、ここから、普通に出ていったとしてもっ……」

「ああ。俺一人じゃ、今のお前とカヤは守り切れないだろうな」

翠の返事は驚くほどに冷静だった。

こんな時に、翠の口からそんな弱音が飛び出してきた事実は、カヤをとても不安にさせた。

律の言う通り、いつかは絶対にこの隠し部屋は見つかってしまう。

(一体どうやって逃げればっ……)

考えのまとまらない頭で必死に考えるが、この状況の打開策など、皆目見当も付かない。


戦々恐々としているカヤの目の前で、何故か翠と律は静かに目を合わせていた。

時たま翠とタケルが見せる無言の会話が、今は翠と律の間で交わされているようだ。


「……決断せねば、ならない……ようだな……」

やがて律が静かに言った。

「ああ。方法はどうする?」

「どうすると言っても……まあ、一つしか……無いだろうな……」

良く分からない会話を交わした二人は、こっくりと頷き合った。

「どうやら同じ考えだな」

「その、ようだな……」

「お前は良いんだな?」

「構わん……本望だ……」

律がフッと笑い、翠もまた、全く同じ笑みを浮かべた。

何の事か理解出来ないカヤの目の前で、翠は、何故だか起き上がろうとする律に手を貸した。

「皮肉だな……こんな場面で……初めて、意見が合うとは……」

翠に手伝って貰いながらもどうにかこうにか上半身を起こした律が、苦笑い交じりに言う。

「最初で最後だろうけどな。傷はどうだ?」

「死にそうだが……最後に、走るくらいなら、出来る……」

「十分だ」

短くそう言った翠が、状況に置いてけぼりになっているカヤを見やった。