【完】絶えうるなら、琥珀の隙間

「何言ってるんだよ。母上はタケルを産んだ後に、屋敷でお亡くなりに……」

「それが私のせいだと言っているんだ……!」

翠の言葉を、律の悲痛な声が遮った。

「私が普通に産まれていれば……母上は無理してタケルを産みもしなかった、し……それが原因で……死ぬ事もなかったんだっ……!」

カヤは息を呑んだ。

二人のお母様がお亡くなりになった理由を詳しく聴いたことは無かったため、勝手に御病気か何かだと思っていた。

けれど違うのだ。

腹を痛めて産んだ双子の子供たちは、片方が男児で、片方はとても神官にはなれないような見目をしていた。

"――――本来なら、女児が産まれるまで子を成すべき"

かつて翠は、神官についてそう語った。

きっとお母様は、神官と成り得る女児を産むべく、また子を成したのだ。

そして無理が祟って、亡くなってしまった――――――



「私は、疫病神なんだ……!ぜん、ぶ……私のせいなんだよ!」

そうやって律は自分の言葉で自分を刺す。
全てを己の業だとして、何度も何度も。

「……っ私なんて、産まれなければ良かったんだ……!」

そして、きっとこれからも、一生。


「やめろっ!」

翠が怒鳴った。
律もカヤも、驚いて彼を見やる。

「……っやめろ……お前のせいじゃない……」

律の傷口を押さえる翠の手は、小刻みに震えていた。

手だけでは無い。
声も、唇も、きっと心すらも。

「俺だって何度も思ったよ!自分が女なら良かったって、死ぬほど考えた!俺が母上を殺したも同然だ、って!あの日から、何度も何度も何度もっ!」

大きく喚き散らした翠に、カヤは言葉を失った。

翠がこんなにも激しく心情を吐露する事など、初めてだった。

(知らなかった……)

何度か翠がお母様の事を語ってくれた事はあったけれど、あまりにも飄々と語るものだから、全く気が付かなかった。

ああ、でも少し考えれば分かっただろうに。

心優しい翠が、律と同じような自責の念を感じないはずが無いと言う事に―――――


「っでも、きっと違うんだよ!」

何かを堪えるように奥歯を噛みしめながら、翠は言う。

「お前がお前じゃなかったらタケルは産まれなかったし、俺が俺じゃなかったら、カヤと夫婦になれなかったし、蒼月にも会えなかった!きっと意味があるんだ!お前がその髪色なのも、俺が男なのも、全部!」

涙が溢れて、どうしようもなかった。

だって、きっと奇跡だった。

此処でこうして息をしている事は、何事にも代えられない、素晴らしい奇跡。

今このために、そして光ある未来のために、翠も、律も、カヤも、何かを背負って産まれてきたのだ。


「お前が自分を認められないなら、俺が認めてやる!」

握り合っている律とカヤの手に、翠の手が重なった。