【完】絶えうるなら、琥珀の隙間

「そ、んな、最後みたいな事、言わないでよ……!」

ボロボロと涙を零すカヤの酷い泣き顔を見て、律は苦笑いを零した。

「そう、だ……」

不意に、何かを思い出したかのように律が懐を漁った。

「これ、返すよ……なかなか使いやすい、短剣だった……」

力無く差し出されたのは、先程律に貸したカヤの短剣だった。

短剣は恐ろしい程に血に塗れていたが、何故だかすっぽりと居心地良さそうに、律の掌に収まっている。

「これ……」

その瞬間、頭の中で現在の光景と、過去の記憶が音を立てて繋がった。

「これきっと、律のだ……!」

「なに……?」

唐突に叫んだカヤに、律が訝し気に眉を顰めた。

しかしカヤは溢れ出る興奮を押さえる事が出来ず、勢いよく捲し立てた。

「この短剣、翠の剣と対になってるの!翠のお母様が作ってくれたんだって!」

いつかの夜、この大切な短剣をカヤに預けてくれた。

その時に彼は言っていたのだ。

翠が持つ剣と、この短剣は同じ石を嵌めこんだ対の剣になっているのだと。

「あのね、ミナトが前に言ってたの!この短剣、女の人用だって!きっと二人のお母様は、律のために作ったんだよ!」

この短剣は柄の部分も細身で軽いため、カヤからすると使いやすいけれど、その分、手も大きくて腕力もある翠からすると使いにくいはず。

だからこそ翠も普段は持ち歩かず、長剣の方を使用していたのだ。

それなのにどうして翠のお母様は、そんな短剣を翠に託したのだろう、とずっと疑問だった。



「わたしの、ため……?」

律が目を丸くしながら、短剣をまじまじと見つめた。

「そうだよ!貴女を我が子だと思っていなかったら、わざわざ作ったりなんてしない!」

男の子用と女の子用、それぞれの短剣を作ろうとするのならば、間違いなく二人が産まれて性別を確認しなければ無理な話だ。

お母様は、律の見た目が他の子とは違うと言う事を、産み落としてすぐに知っただろう。

にも関わらず、この二振りの剣を鍛冶師に作らせたのだ。

翠の剣だけでは無い。
自分の手で存在を隠したはずの律の剣も、ちゃんと。


「お母様は、律が思っているよりも、律を大切に思ってたんだよ!」

カヤがそう叫ぶと、律は顔をくしゃっと歪めて、短剣から無理矢理に眼を逸らした。

「そんな、はずが無い……きっと私は、恨まれている……」

血の気の失せた唇が、震える言葉を吐く。

「こんな髪で産まれて……何度も、会いに来てくれた母上を、拒絶して……挙げ句の果てに、母上を殺したっ……!」

ああ、やっぱり律のお母様は、彼女に会いに行っていたのだ。

それが彼女の口から聞けて、何処かホッとした。

しかしカヤは、その後の言葉が気に掛かった。

「殺した?お前が?」

それまで黙っていた翠が訝し気に言う。

どうやら翠も、カヤと同じように『殺した』と言う部分が引っかかったようだった。