【完】絶えうるなら、琥珀の隙間

律の身体を支えている翠の腕からは、ポタポタと引っ切り無しに血液が滴り、すでに足元には血だまりが出来始めている。

浅く呼吸を繰り返す律の顔は、白いを通り越して青白かった。

このまま二度と瞼が開かないのでは――――そんな予感が頭をよぎり、ぞっとした。

「りつっ……律……!しっかりして、律!」

とにかく律の息が止まってしまうのが恐ろしくて、必死に呼びかけていると、

「カヤ、静かにっ」

不意に翠が言い放った。

驚いて口を紡ぐ。

その途端、どこか遠くの方からバタバタと言う複数の足音が聞こえてきた。

「……まさか、また砦の兵……?」

恐れを成して翠を見れば、彼は苦々し気な表情で頷いた。

「恐らくそうだろうな……」

音を聞く限りまだ離れた所に居るようだが、この洞窟もそこまで広いわけでは無い。

いずれこの場所にも辿り着くだろう。

そうなったら、もう終わりだ。今度こそ逃げきれない。


「とにかく奥へ移動しよう!このままじゃすぐに見つかる!」

翠が律を軽々と抱き上げながら言った。

「っおい、翠……」

すると、律が苦し気に口を開いた。

「もう少し奥に進む、と……横穴が、ある、から……そこに行け……」

途切れ途切れにそう言って、律はまた力無く瞼を閉じてしまった。

二人が洞窟を進むと、確かに律の言う通り、右手側にすぐ横穴が現れた。

中を覗けば、そこには雑多に物が置かれていた。

不揃いな木材がうず高く積まれ、縁が欠けたり割れたりしている器の山、持ち手が折れて使えなくなったらしい農具――――どうやらこの部屋は、不要となったガラクタ置き場となっているようだ。


「その……荷物、を……退かせ……後ろに、隠し部屋が……ある……」

再び律が言った。

彼女が指し示していたのは、部屋の奥に置いてある大きな木の箱だった。

中を覗けば、そこには天幕らしき布が乱暴に放り込まれている。

だが、どの布も穴が空いたり破れたりと、酷く痛んでいるので、もう天幕としては使え無さそうだ。

カヤが律の指示通りその木箱を横にずらすと、箱の後ろから人間一人分が入れそうな横穴が現れた。


「カヤ、先に入ってくれ!」

「うん!」

蒼月を抱きながら這いずるようにして中に入ると、すぐ後ろから翠も律を引き摺り込みながら入ってきた。

部屋の中は狭かったが、幸いにも律をうつ伏せに寝かせ、カヤと翠がその隣に座るくらいの広さはあった。

再び木箱で入口をしっかりと塞いだ翠は、律に向き直ると、キッと睨み付けた。

「お前は馬鹿か!どうして俺を庇った!」

「……っるさい……怒鳴るな……」

心底煩そうに眉を顰めた律に、衣の袖部分をビリビリと破りながら、翠が舌打ち交じりに言う。

「強目に抑えるぞ、歯食いしばれ!」

布を律の背中に当てた翠は、体重を掛けて傷口を押さえた。