【完】絶えうるなら、琥珀の隙間

「翠、退け!」

そんな鋭い声が響き、それが合図のように翠がサッと身を退いた。

と同時に、疾風のような勢いで向かってきた律が、兵の腹を目がけて短剣を振るう。

「ぐあっ……!」

次の瞬間、地面に膝を付いたのは、翠とやり合っていた砦の兵だった。

腹を押さえている。
どうやら律の短剣が、容赦なく腹を切り裂いたらしい。

「おい、殺すなよ!」

休む間もなく次の敵に向かって行きながら、翠が怒鳴った。

「うるさい、分かってる!致命傷にならん程度にしてやったんだ!」

丁度、隣に居た兵の腹に強力な拳をお見舞いした律が、苛立ったように叫び返した。


(……凄い……)

蒼月に目の前の光景を見せないよう、ギュっと頭を抱き締めながらも、カヤはこんな時だと言うのに、目の前の戦いに見入ってしまった。

悪態を付き合いながらも戦う二人の息は、驚くほどにピッタリだったのだ。

互いが互いの邪魔にならぬように戦い、ここぞと言う時には互いを助けながら、次々と兵を倒していく。

仮に此処に居るのが律では無くタケルだったとしても、翠とはこんな風に戦えなかっただろう。

それほどに翠と律は、まるで互いが何を望んでいるのか、次に何をしようとしているのかが、口にせずとも分かっているようだった。


(綺麗、だ……)

戦いなんてものを見て、そんな風に感じる時が来るなんて思わなかった。


場にそぐわないと分かってはいるが、けれど、そう思う事を止められなかった。

綺麗だった。
二人も、そして呼応するように光る薄緑色の石も、とても。



「カヤ!何してる!?」

そんな翠の叫びに、カヤはビクッと肩を揺らした。

(しまった……!)

ぼんやりと戦いに見惚れていたのが悪かったらしい。
翠と律の眼をかいくぐって、いつの間にやら一人の兵がカヤの間近にまで迫ってきていた。

「クンリク様っ……!」

あまりにも必死な面持ちで、兵が手を伸ばしてくる。

「ひっ……」

思わず後ずさったカヤの目の前に、白い影が勢いよく割り込んできた。

「やめろ!」

そんな声の後に、固く甲高い音、そして押し殺したような呻き声、誰かが地面に膝を付く音。

蒼月を己で庇うようにして抱き込んでいたカヤは、恐る恐る背後を振り向いた。

「あ……」

足元には、カヤに手を伸ばしてきた兵が倒れ込んでいる。


そして、その隣には―――――

「ぐっ、う……」

地面に蹲っている律の姿が。


彼女は、顔中を歪めながら右肩を押さえていた。

肩を押さえる左指の隙間からは、じわじわと赤い液体が漏れ出している。

傷が開いたのだ、と一瞬で分かった。