辺りは真っ暗にも関わらず、その水の勢いがどれほど凄まじいのか、ここまで飛んでくる水しぶきの量と、轟音で分かった。
膝下あたりの水位だったあの小川が、雨のせいでここまで姿を変えるなんて――――
「人の話はっ、最後まで聞け、馬鹿……!この雨で増水してるんだよ!ここからは降りれない……!」
二人が立ち尽くしていると、フラフラとしながら律が追いついてきた。
「今は隠れるしかない!とにかく戻れ!」
律に急かされ、カヤ達は再び洞窟内に戻ってきた。
「こっちだ!隠れ部屋がある!」
息を付く暇もなく律が走り出したので、カヤと翠はその後に続いた。
そして、三人が一つ目の角を曲がった時だった。
「きゃっ……」
カヤは思わず叫び声を上げた。
曲がり角から姿を現したのは、五人もの男達だった。
見知らぬ男だ。
あちらもあちらで、いきなり現れたカヤ達に驚いた表情をしている。
カヤには彼らが砦の兵だとすぐに分かった。
何故なら男達は血の付いた剣を手にしていたし、カヤの姿を見止めた瞬間、剣を構えてきたからだ。
それと同時に、翠と律がカヤを庇うように目の前に立ち塞がった。
「翠様。クンリク様と御子をこちらへ御引き渡し下さい」
翠と律の身体越しに見える兵が、そう言った。
「ハヤセミ様は、貴女様がクンリク様を大人しくお渡しするなら、国境に配備している兵を退却させる、と申し上げております」
その言葉に、カヤは耳を疑った。
(私……?)
つまりそれは、無益とも言える殺戮が起きるかどうかは、カヤの存在によって左右されると言う事なのか。
(い、やだっ……)
嫌だ。絶対に嫌だ。行きたくない。
当然のようにそう思った。
あの場所に行けば、今度こそ絶対に戻れないだろう。
やっとの思いで、あの日逃げ出したのだ。
翠と一緒になれて、蒼月にも会えて、三人でこれからも、ずっとずっと幸せに―――――
(しあわせ、に……)
――――けれど、カヤの幸せと引き換えに、誰かが不幸になるのだろうか?
「戯言は不要だ。今すぐに去るが良い」
目の前の翠が、鋭く言い放った。
「そしてハヤセミに伝えろ。明日、明後日にでも川が氾濫する。兵の命が大事なら、即刻退却しろとな」
「申し訳ありませんが、何がなんでもクンリク様とその御子を連れ帰れと仰せつかっております――――そして、必要ならば貴女様を葬れ、とも」
「まあ、そうだろうな」と、翠はまるで答えを分かりきっていたかのように笑った。
「だったら残された道は一つしか無さそうだ」
チャキ、と翠の手の中で剣が鳴る。
ゆっくりと腰を落とした翠は、兵から眼を逸らす事なく律に言葉を投げかけた。
「おい、女。やれるか」
「ああ……と、言いたい所だが」
すぐさま返答をした律だったが、その声色にはいつものような覇気が無い。
膝下あたりの水位だったあの小川が、雨のせいでここまで姿を変えるなんて――――
「人の話はっ、最後まで聞け、馬鹿……!この雨で増水してるんだよ!ここからは降りれない……!」
二人が立ち尽くしていると、フラフラとしながら律が追いついてきた。
「今は隠れるしかない!とにかく戻れ!」
律に急かされ、カヤ達は再び洞窟内に戻ってきた。
「こっちだ!隠れ部屋がある!」
息を付く暇もなく律が走り出したので、カヤと翠はその後に続いた。
そして、三人が一つ目の角を曲がった時だった。
「きゃっ……」
カヤは思わず叫び声を上げた。
曲がり角から姿を現したのは、五人もの男達だった。
見知らぬ男だ。
あちらもあちらで、いきなり現れたカヤ達に驚いた表情をしている。
カヤには彼らが砦の兵だとすぐに分かった。
何故なら男達は血の付いた剣を手にしていたし、カヤの姿を見止めた瞬間、剣を構えてきたからだ。
それと同時に、翠と律がカヤを庇うように目の前に立ち塞がった。
「翠様。クンリク様と御子をこちらへ御引き渡し下さい」
翠と律の身体越しに見える兵が、そう言った。
「ハヤセミ様は、貴女様がクンリク様を大人しくお渡しするなら、国境に配備している兵を退却させる、と申し上げております」
その言葉に、カヤは耳を疑った。
(私……?)
つまりそれは、無益とも言える殺戮が起きるかどうかは、カヤの存在によって左右されると言う事なのか。
(い、やだっ……)
嫌だ。絶対に嫌だ。行きたくない。
当然のようにそう思った。
あの場所に行けば、今度こそ絶対に戻れないだろう。
やっとの思いで、あの日逃げ出したのだ。
翠と一緒になれて、蒼月にも会えて、三人でこれからも、ずっとずっと幸せに―――――
(しあわせ、に……)
――――けれど、カヤの幸せと引き換えに、誰かが不幸になるのだろうか?
「戯言は不要だ。今すぐに去るが良い」
目の前の翠が、鋭く言い放った。
「そしてハヤセミに伝えろ。明日、明後日にでも川が氾濫する。兵の命が大事なら、即刻退却しろとな」
「申し訳ありませんが、何がなんでもクンリク様とその御子を連れ帰れと仰せつかっております――――そして、必要ならば貴女様を葬れ、とも」
「まあ、そうだろうな」と、翠はまるで答えを分かりきっていたかのように笑った。
「だったら残された道は一つしか無さそうだ」
チャキ、と翠の手の中で剣が鳴る。
ゆっくりと腰を落とした翠は、兵から眼を逸らす事なく律に言葉を投げかけた。
「おい、女。やれるか」
「ああ……と、言いたい所だが」
すぐさま返答をした律だったが、その声色にはいつものような覇気が無い。
