【完】絶えうるなら、琥珀の隙間

「へ?なにが?」

「……剣を打ち合う音がする」

そう言われ、ようやくカヤの耳にも雨音以外の音が届いてきた。


――――……キィン……ガキィン……


どこか遠くの方で、固い刃と刃がぶつかり合う音が聞こえる。

そして、何人もの人間が怒鳴り合う声も。


「……誰かが戦ってる?」

恐る恐る予想を口にすれば、律が険しい表情で頷いた。

「そんな気がするな。様子を見てくるから、カヤはここで待っていて……」

ピタリ、と律が言葉を途切れさせた。

洞窟の入り口の方向から、誰かがバタバタと走ってくる音がしたのだ。

「下がってろ」

「う、うん!」

蒼月を抱きしめながら、構えを取る律の背後に回る。

固唾を飲んで、近づいてくるであろう人物が誰なのかを待ち構えた数秒後だった。


「―――――カヤッ!」

暗闇の中から現れた人物を目にした瞬間、カヤも律もすぐに緊張を解いた。

「ああ、なんだ……翠か……」

しかしながら、一呼吸すら胸を撫で下ろす暇も無かった。

「今すぐ逃げろ!敵襲だ!」

勢いよくカヤの手首を掴みながら、翠が言い放った。

「えっ……え!?敵襲!?」

「今、皆が入り口で食い止めてくれてる!おい、女!此処に他の出口は!?」

混乱するカヤを置いてけぼりに、翠が律に向かって叫んだ。

律もまた戸惑っているようだったが、すぐさま答えを返した。

「他の出口はあの崖しか無い!木を伝えば降りれるかもしれないが、今はっ……」

「行くぞ!カヤを逃がす!」

翠は律の言葉を最後まで聞く事も無く、カヤを強い力で引っ張った。

洞窟を抜けた瞬間、ものすごい量の雨が二人を打つ。

翠とカヤは、水を含みすぎて最早泥と化した草原を、足を取られながら進んだ。


「翠!敵襲って、砦の兵が!?」

雨音に負けないよう、カヤは大声で前を行く翠の背中に叫ぶ。

「ああ、間違いない!カヤ達を捕らえに来たんだろう!ついでに俺を殺しにもな!」

「ほ、他の皆はっ……戦ってくれてる他の人たちは!?」

「カヤを逃したらすぐに戻る!とにかく質問は後だ!今は蒼月を連れて逃げるのが先――――」

ドロドロになりながら崖に辿り着いた翠は、動きを止めた。

いきなり翠が停止したので、カヤは困惑しながらも崖下を覗き、そして目を疑った。

「う、嘘……」

数日前、カヤと弥依彦が決死の思いで戦った崖下の地面は姿を消し、そこにあったのは轟々と激しくうねる濁流だけだったのだ。