【完】絶えうるなら、琥珀の隙間

(私、全然駄目だ……)

守られているばかり。貰っているばかり。
誰にも何も返せていない。のうのうと安全に息をしているだけ。

―――――自分は、一生こうやって誰かに身代わりなってもらうのだろうか?




その時、洞窟の入り口側からバタバタと大きな足音が聞こえてきた。

「おい、大将っ!大変だ!」

姿を現したのは蔵光だった。
とても慌てた表情をしている。

「どうした?」

ただ事では無い様子に、ミナトがすぐさま立ち上がった。

「ハヤセミ様が国中に御布令を出した!これを見てくれ!」

蔵光から書簡を受け取ったミナトは、翠と共に中身に目を通した。

一体中に何が書かれているのか、カヤは固唾を飲んで二人の様子を見守る。

「……やはりか」

やがて、書簡を読み終わった翠が苦々しげに息を吐いた。

決して宜しくはなさそうな内容なのが、すぐに分かった。

「何て書いてあるの……?」

恐る恐る尋ねたカヤに、翠は口を開いた。

「前に、北の国の内部で盟約の稟議を通して貰っているって言っただろ?」

確かに翠はカヤに会いに集落へ来てくれた時、そう説明した。

北の王も前向きな返答をくれたし、次に赴いた時には良い返事が聴けるはずだ、とも。

カヤと口論した数日後、翠は結果を聴きに北の国へ赴く予定だった。

襲撃の事で頭がいっぱいだったが、そう言えば北の国の王の返事はどうだったのだろうか?


「も、もしかして上手くいかなかったの?」

「いや、結果的には上手くいったよ」

その返答に、カヤはホッと胸を撫で下ろす。
だが翠は険しい表情のまま「ただな……」と言葉を続けた。

「その返事を聞きに行った時に北の王が言っていたんだ。ハヤセミに、盟約締結を承諾するなら制裁は免れない、と言われているってな」

「それって、つまり……脅しって事?」

「そういう事だ」と翠は頷く。

なんと言う事なのだろう。ハヤセミは、翠が何度も持ちかけた交渉を無視するだけではなく、近隣諸国に圧力をも掛けていたのだ。

どうあっても翠と和解するつもりは無いと言う事なのだろうか。


「北の王はハヤセミに攻められるのを酷く危惧していてな。結局、どちらかの国が他国から侵略を受けそうな場合は、互いに兵を派遣し合う事を条件にして、締結にはこぎ着けたけど……まあ、ハヤセミからすれば、腸が煮えくり返るのは当然だ」

「まさか……」

『腸が煮えくり返る』と言う言葉を聞き、カヤの頭には真っ先にある考えが浮かんだ。