【完】絶えうるなら、琥珀の隙間

「カヤ、焚き火の近くに寝床を用意するようミナトに伝えてくれ。こいつ、体が冷え切ってる。温めた方が良い」

目を丸くしていたカヤは、翠にそんな言葉を投げかけられ、ハッと意識を取り戻した。

「は、はい!」

転げるように部屋を飛び出したカヤの後ろから「降ろせ馬鹿!」と律が叫ぶ声、そして「叫ぶな馬鹿!」と翠が言い返す声が聞こえてきた。

色んな意味で心配になりながらも、カヤは慌てて走り出したのだった。









「矢傷を受けたのに、手当もせずに激しく動き回っただあ?」

包帯を手にしたミナトが、素っ頓狂な声を上げた。

あの後、ジタバタと暴れる律を抱えながら戻ってきた翠は、ミナトが用意した寝床に律を放り込んだ。

無理矢理に傷口を曝け出された律は、ようやく諦めたのか、不服そうな顔をしながらも黙って横たわっている。

「悪化すんに決まってんだろーがよ。さっさと言えや、そういう事は。早いうちに言っときゃユタに診て貰えたのによ……」

ブツブツ言いながら覚束ない手付きで傷口に包帯を巻くミナト。

確かにユタだったらこういった時の正しい対処方法を分かっているだろう。

けれど彼女は今、虎松の故郷の村に身を隠しているため、此処には居ない。


「うるさいな……大したことないと思ったんだ……」

「だからって此処まで放っておくなや。もう少し自分の体を労れ」

ミナトの言葉に、律はフンッと鼻を鳴らした。

どこかで見たことのある光景だと思ったら、以前翠が体調を崩した時の様子と全くといって良いほど同じだった。

かなり辛いだろうに、周りに黙って、一人でじっと耐えようとする所が恐ろしいほど翠とそっくりだ。

「とにかくしばらく安静にしてろ。マジで死ぬぞ」

厳しい口調でそう言ったミナトに、律はまたもや鼻を鳴らした。


「律……ごめん、私のせいで……」

カヤが消え入りそうな声で謝ると、不機嫌そうな表情でそっぽを向いていた律がこちらに顔を向けた。

彼女は眉間に刻んでいた皺を少し取り除くと、目尻を緩めた。

「……カヤのせいなわけ、あるか……カヤに怪我がなくて、良かった……」

弱々しいその笑顔に、カヤはとてもじゃないが笑みを返す事は出来なかった。

律は、いつだってそう言う。
カヤが無事で良かった、と。

否、そう言ってくれるのは律だけでは無い。

膳だってそうだ。
あんな怪我を負ってまで、蒼月に怪我がなくて良かった、と言ってくれた。