【完】絶えうるなら、琥珀の隙間

「いや……何でも無い……」

そう言った律の呼吸は、不自然なほどに荒かった。

「何でも無いって顔色じゃ無いよ!と、とにかく横になって……!」

律を寝かせようと、彼女の右肩に手を置いた時だった。

「うっ……!」

律が短く悲鳴を上げたので、カヤは反射的に彼女の肩から手を離した。

その瞬間に思い出す。
カヤを助けにきてくれた時、律が右肩に矢傷を受けた事を。

「律、もしかして……」

「――――カヤ?見つかったか?」

背後から聞こえた声に、カヤは弾かれたように振り返った。

松明を手にした翠が、不思議そうな顔をして立っていた。
どうやら心配して後を追ってきてくれたらしい。

「翠!律がっ……」

泣きそうな顔のカヤ、そして蹲って右肩を抑えている律を見て、翠はすぐに状況を理解してくれたようだった。

足早に近寄ってきた翠は、右肩を抑えている律の左手首を握って、無理やりに退かせた。

「怪我でもしたのか?見せろ」

「要らんっ!」

バシッ!と勢いの良い音がして、一瞬後には翠の右手は律によって弾かれていた。

「私に触るな、放っておけっ……」

まるで狼のように威嚇する律に、翠が苛立ったように眉を寄せた。

「相変わらず腹立つ女だな。良いから黙って見せろ」

「何でも無い……って何でも無いって言ってるだろ!やめろ、馬鹿!」

律が叫び声を上げた時には、すでに翠は律の衣を半ば無理矢理に肩からずり下ろしていた。

布の向こう側から現れた律の右肩を目の当たりにしたカヤは言葉を失った。

律の右肩には、線を引いたような真っ直ぐな傷が走っていた。
恐らく矢を受けた時に出来たものだろう。

しかしその経緯を知らなければ、それが矢傷だとは分からなかったかもしれない。

普通は傷と言えば赤いようなものだが、律の傷は皮膚が黄色味を帯びた白色に変色し、一本線の傷の間からは、じくじくと湿った皮膚の内部が露出していた。

とてもじゃないが、ただ矢を受けただけのような傷には見えない。


「な、なんでこんな……」

あまりに痛々しい傷を目の当たりにし、呆然とするしか無いカヤとは正反対に、翠の行動は早かった。

「おい、暴れるなよ」

「はあ?……って、うわ!」

なんと翠が律を抱き上げたのだ。
あの律を、あの翠が、だ。