【完】絶えうるなら、琥珀の隙間

それでも諦めずに目に付く限りの道を走ったが、やがて走りつかれたカヤは、のろのろと足を止めた。

「居ない……」

絶望的な気持ちで、顎の汗を拭う。

やはり、この村には居ないのかもしれない。
そう思わざるを得なかった。


頼みの綱が断たれ、カヤはその場にしゃがみ込んでしまった。

組んだ腕に顔を埋めれば、虚しさと哀しさで溢れ出てきた涙が、地面にポタポタと零れ落ちた。

「そうげつっ……」

涙と共に、愛おしい名前を口にした時だった。


―――――不意に、風に乗って子供の声が聞こえた気がした。



ハッと顔を上げたカヤは、すぐさま立ち上がり、駆けだした。

無邪気に笑う子供の声が、どこからか聞こえたのだ。
絶対に聞き間違いでは無かった。


「蒼月ー!蒼月っ!」

必死に走りながら、腹の底から声を張り上げた時、カヤの眼にとある人物の姿が飛び込んできた。

随分離れた所に居るその人物は、開けた草原の真横に立っていた。

カヤの存在には気が付いていないようで、顔はこちらでは無く、まっすぐ草原の方を向いている。


「嘘……」

ほんの一瞬だけ足を止めて瞬きを繰り返したカヤは、次の瞬間には全力で足を動かしていた。

「ナツナーっ!」

カヤの大声に、ナツナが大きく肩を揺らした。

見慣れた横顔がこちらを向き、カヤの姿を見止めた瞬間、くしゃりと歪んだ。

「カヤちゃん!」

駆け寄ってきたナツナを、ぎゅっと抱きしめる。

「ナツナッ……!無事だったんだね!」

「カヤちゃんこそご無事で良かったのです!」

二人は固く抱き合いながら、互いの無事を喜び合った。


「ナツナ、他の皆はっ……蒼月が何処に居るか知らない!?」

期待を込めて尋ねれば、ナツナはニッコリと笑った。

「全員無事です。蒼月様は、あそこで遊んでいらっしゃいますよ」

ナツナの指し示す指の先を見た時、息が止まりそうな衝撃を受けた。


白と紫の秋桜が咲き乱れている花畑の中心に、ポツリと小さな影があった。

しゃがみ込んで花を摘んでいるいるその影は、まるで花に埋もれてしまいそうな程に、小さい。


「そ、う……げつ……」

呆然と呟きながら、フラフラと秋桜畑に足を踏み入れる。

あちらを向いて夢中で花を摘んでいる背中が、徐々に近づいていく。
それにつれて、楽しそうな笑い声も耳に届いてきた。


ああ、間違いなかった。
蒼月だ。

小さくて、愛おしい、私の蒼月。