【完】絶えうるなら、琥珀の隙間

「なっ……え……!?」

意味が分からず狼狽えていると、同じくゴホゴホと咳き込んでいたミナトが、噛み付くように言った。

「蔵光!いつの話してんだよ!」

「俺からしたら、つい昨日の事みたいだぞ」

「十年以上前じゃねえか!良いから早く戻ってくれ……って、おい、蔵光!」

ミナトが焦ったように叫んだ。

向かい側に居たはずの蔵光が、何故だか場所を移動して、カヤの真横に腰を下ろしてきたのだ。


「なあ、クンリク様。知ってるか?」

カヤの顔を覗き込みながら、蔵光が気の良い笑顔を向けた来た。

「こいつ、こーんなに小さい頃に、たった一人で俺らが働いてた採掘場に来た事があってよ」

地べたに座っている自分の顔辺りの高さに掌を置きながら、蔵光が言う。

「プルプル震えながら『大切な女の子にあげたいから、琥珀をくれ』って言いやがったんだぜ?しかも金も持ってなくてよ。良い根性してるよなあ」

「蔵光、やめてくれって!」

「もうこっちが可哀想になるくらいビビッててな。それが今ではこの通りだよ。ふてぶてしいの、なんのって。子供ってのは成長するもんだよなあ」

あ、とカヤは声を上げた。
何処かで聞き覚えのある話に、記憶が刺激されたのだ。


「もしかして『出世払い』の人ですか……?」

幼い頃、ミズノエがカヤに贈ってくれた髪飾。

それに付いていた琥珀の石を、彼は採掘場の人に譲って貰ったと教えてくれた。

そして『しゅっせばらいで良いよ』と大人達が言ってくれたのだとも。


「おお!それそれ!」

蔵光が嬉しそうに笑った。

「あの、その節はありがとうございました」

あの石がきっかけで、失っていた声を取り戻す事が出来たのだ。

カヤがこうして息をしていられるのも、ミナトは勿論の事、蔵光のお陰と言っても過言では無い。

深々と頭を下げたカヤに、蔵光は歯を見せて笑った。

「良いって事よ。こいつが出世したら十倍返ししてもらう予定だからよ」

「せめて二倍だろ」

「そうケチケチすんな、よ!」

口を挟んだミナトの背中を、蔵光がバシッ!と叩いた。

「いってえ!」

「んじゃ俺は戻るからよ。何かあったら声掛けてくれや、大将」

ヒラヒラと手を振りながら、蔵光は洞窟を出て行った。


「ったく、余計な事をペラペラと……」

叩かれた背中を痛そうに擦っているミナトに、カヤは疑問をぶつけた。

「ねえ。洞窟の外に居た人達は隣国の人?どういう人達なの?」

「まあ、同志みたいなもんだな」

「同志……?」

首を捻ったカヤに、ミナトは説明をしてくれた。


およそ二年半前に集落を後にしたミナトは、同じく集落を出て行った白と再び合流し、行動を共にしてきたらしい。

二人は、翠とハヤセミの国間での争いを避ける事を目的として、ずっと水面下で動いていたそうだ。

そして彼らは、そんなミナトの考えに賛同してくれた人達と言う事だった。