【完】絶えうるなら、琥珀の隙間

律が出て行ってすぐ、ミナトも続いてその場を離れ、洞窟の入口の方へと向かって行った。

衣が乾ききっていないカヤと弥依彦は、炎に当たりながら、ずっと黙っていた。


(蒼月……)

パチパチと爆ぜる炎を見つめながら考えるのは、我が子の事だけ。


あの血は蒼月のものなのだろうか?

怪我をしているのだとしたら、何処にどんな傷を負っているのだろう?

ユタが一緒だから、きっと手当はしてくれるだろうが、手当すら無駄なほどの酷い怪我だったとしたら?


(もう少し考えた行動をするべきだった……!)

深い後悔の念が、心にこびり付いて離れない。


蒼月を一瞬たりとも放すべきではなかった。

そうすれば、例え兵に襲われたとしても、カヤが身を挺して庇えたのに。そうするべきだったのに。


カヤは目の前の炎を見つめた。
涙が出てしまいそうなほど温かい。

それに、此処には律もミナトも居る。とても安全だ。

(それなのに、どうして)

どうして此処に蒼月が居ないのだろう?
どうして母親であるはずの自分だけ、のうのうと休んでいるのだろう?



「……おい、クンリク?」

静かに立ち上がったカヤに、弥依彦が訝し気な声を上げた。

「やっぱり私も蒼月を捜してくる」

居ても立っても居られなかった。
じっとしているなんて、拷問に近かった。


足早に洞窟の入口へと向かおうとするカヤを、弥依彦が慌てて引き止めた。

「おい!待てって!また兵に鉢合せしたらどうするんだ!」

「だって、大人しくなんかしてられないよっ……!」

二人が押し問答をしていると、

「――――何してんだ?」

不思議そうな顔をしたミナトが現れた。
何やら両手に器を持っている。

ミナトは、立ち上がっているカヤと、そのカヤの腕を掴んでいる弥依彦を見ると、すぐに状況を理解してようだった。


「琥珀。気持ちは分かるけどよ、一旦は律の帰りを待て。翠様がもうナツナ達を見つけてたら、行き違いになるぞ」

何とも正論であった。

気持ちは今すぐにでも走り出していきたいが、確かにミナトの言う通り、カヤが洞窟を出て行ってしまっては、また状況がややこしくなりかねない。


「……うん」

渋々と頷けば、ミナトが何かを差し出してきた。

「ほれ、ひとまず食っとけ。弥依彦様も」

カヤと弥依彦は、ミナトから器を受け取った。
中には美味しそうなお粥が入っていて、お味噌の良い匂いがした。

ぐう、と思い出したように腹の虫が鳴るが、カヤはそれを口にするのを躊躇った。

(ナツナ達は、何も食べれていないかもしれないのに……)

すると、カヤの気持ちを汲み取ったらしいミナトが、真面目な表情で言った。

「お前が食わねえ事に何の意味もねえぞ。食える時に食っとけ。ナツナ達が心配なら、尚更それ食って、少しでも頭働かせろ」