【完】絶えうるなら、琥珀の隙間

カヤは慌てて首を横に振った。

「ううん。探してくれて本当にありがとう。律を信じて良かった」

ここまでして貰った律にそんな顔をさせてしまったのが申し訳なくて、カヤは無理矢理に笑った。

ただ、ミナトと律に会えて心に湧いた小さな希望もしゅるしゅると萎み、再び心が絶望に支配されかけていた。

カヤよりも、ずっと優れている二人が捜してくれていたにも関わらず、未だ蒼月達を見つけられて居ないと言う事は、つまり――――



「琥珀。ひとまず何があったか教えてくれねえか」

失意の淵に立っていたカヤの耳に、ミナトのそんな声が届いた。


カヤは、あの恐ろしい夜の事を、掻い摘んで口にした。

時折、弥依彦の口も借りながら、自分たちが見たこと、聴いたこと、そして思ったことを二人に話した。


集落を襲った男達は、間違いなく砦の兵だと言う事。

カヤが生きているのだと、あちら側に知られてしまった事。

寧ろカヤが原因で集落を襲撃したのではないか、と考えている事。


そして、はぐれてしまった蒼月が生きているのか死んでいるのか、分からないと言う事―――――



「……マジかよ」

カヤが血濡れの玩具を見せると、ミナトが頬を引き攣らせた。

ずっと握りしめていた玩具の血は、時間が経ったせいか、拾った時よりも赤黒さが増していた。

玩具を見下ろす四人の間を、どんよりとした重たい空気が流れる。



「……とにかく、カヤが見つかった事を翠に報せてくる」

黙りこくって玩具を見下ろしていた律が、俊敏に立ち上がった。

律が何てこと無いような口調で翠の名前を口にしたので、カヤは驚きのあまり思わず腰を浮かせた。

「翠が居るの!?何処に!?」

「近くには居ない。こちらと手分けして、翠達もずっとカヤを捜していたんだ」

「そうだったんだ……」

よもや翠までもが捜索に加わっていたとは、露ほども知らなかった。


「何か翠に伝えるか?」

律が言った。


伝えたい事と言うよりも、謝りたい事は山ほどあった。

あんな酷いこと言ってごめんなさい。
心配かけてごめんなさい。
大切な公務の邪魔をしてごめんなさい。

蒼月を手放してごめんなさい―――――


「……ううん、大丈夫」

カヤは静かに首を横に振った。

ただでさえ己を許せないのに、謝罪の言葉すら代弁を頼んでしまっては、更に自分を嫌悪してしまいそうだった。


律は「そうか?」と意外そうな顔をしたものの、すぐに洞窟を後にした。