しかし一瞬で間合いを詰めてきた兵が、二度目の斬撃を繰り出してくる。
首を捩って間一髪で避けたが、シュッ――――と風を切る音が、ほんの目の前で聞こえ、ひうっ、と小さな悲鳴が漏れた。
逃げ遅れた髪に水平の斬り込みが走り、ハラハラ……と宙を舞う。
ほんの一瞬遅れていたら、鼻が飛んでいたかもしれない。
どこが『多少の傷はお許し下さい』なのだ。下手すれば死んでいたでは無いか。
「くっ……」
歯噛みしたカヤは、勢いよく地面を蹴った。
とにかく殺さない程度の怪我を負わせて、この場から逃げたい。
その一心で相手の向かって突き立てた刃は、ギリギリの所でいなされ、そして再び繰り出されてきた刃を、死にもの狂いで受ける。
(蒼月っ……)
何も考えられない頭の中に、大事な我が子の顔だけが浮かぶ。
頭を占めるのは、ただただ、それだけだった。
今この時のためにずっと剣技を学んできたはずなのに、それを思い出す余裕など一つも無かった。
捕まりたくない。死にたくない。
生きて、絶対に蒼月に会わなければ!
はっきりとそう思った時、兵が剣を大きく振りかぶった。
突然、あれだけ目まぐるしく見えていた相手の動きが、緩やかなものになった。
ゆっくり、ゆっくりと、刃が降って来る。
その切っ先の鋭利さまで確認出来てしまうほど、本当にゆっくりと。
『ここぞ、と言う時こそ大振りにはなるな。隙が出来るぞ』
何度も虎松に教えてもらった言葉が頭に浮かぶ。
正しくその通りで、現に相手の胴は、今この瞬間とても無防備な状態だった。
力も技量も敵わないだろうが、それでも接近戦なら刃の短いカヤの方が断然有利だ。
(今しか無い)
導かれるようにして右手が動く。
相手の剣は、まだ遠い。
カヤの刃の方が早く到達するに違いなかった。
(―――――勝った!)
そう確信した刹那、バシュッ―――――と何かが遠くから放たれた音がした。
ガァンッ!と言う音と共に、右手に激しい痛み。
「いっ……」
カヤは思わず短剣を取り落とした。
ガランッ、と音を立てて地面に転がった短剣。
その隣に同時にポトリと落下してきたのは、一本の弓矢だった。
「なっ、に……」
それが飛んできた方向を見たカヤは、絶句する。
一人の兵が弓を構え、カヤを狙っていた。
なんと言う事だろう。
必死に戦うあまり、弓矢を持つ兵が居る事を忘れてしまっていた。
咄嗟に、痛みの残る右手を見下ろす。
右手に痺れるような痛みはあるものの、血は出ていない。
偶然か誠か、幸いにも矢じりはカヤの右手では無く、短剣に命中したようだった。
「それ以上、動かれませんよう」
地面の短剣に手を伸ばしかけたカヤは、兵の声でビクッと動きを止める。
目の前の兵は勝ち誇ったような笑みを受かべていた。
首を捩って間一髪で避けたが、シュッ――――と風を切る音が、ほんの目の前で聞こえ、ひうっ、と小さな悲鳴が漏れた。
逃げ遅れた髪に水平の斬り込みが走り、ハラハラ……と宙を舞う。
ほんの一瞬遅れていたら、鼻が飛んでいたかもしれない。
どこが『多少の傷はお許し下さい』なのだ。下手すれば死んでいたでは無いか。
「くっ……」
歯噛みしたカヤは、勢いよく地面を蹴った。
とにかく殺さない程度の怪我を負わせて、この場から逃げたい。
その一心で相手の向かって突き立てた刃は、ギリギリの所でいなされ、そして再び繰り出されてきた刃を、死にもの狂いで受ける。
(蒼月っ……)
何も考えられない頭の中に、大事な我が子の顔だけが浮かぶ。
頭を占めるのは、ただただ、それだけだった。
今この時のためにずっと剣技を学んできたはずなのに、それを思い出す余裕など一つも無かった。
捕まりたくない。死にたくない。
生きて、絶対に蒼月に会わなければ!
はっきりとそう思った時、兵が剣を大きく振りかぶった。
突然、あれだけ目まぐるしく見えていた相手の動きが、緩やかなものになった。
ゆっくり、ゆっくりと、刃が降って来る。
その切っ先の鋭利さまで確認出来てしまうほど、本当にゆっくりと。
『ここぞ、と言う時こそ大振りにはなるな。隙が出来るぞ』
何度も虎松に教えてもらった言葉が頭に浮かぶ。
正しくその通りで、現に相手の胴は、今この瞬間とても無防備な状態だった。
力も技量も敵わないだろうが、それでも接近戦なら刃の短いカヤの方が断然有利だ。
(今しか無い)
導かれるようにして右手が動く。
相手の剣は、まだ遠い。
カヤの刃の方が早く到達するに違いなかった。
(―――――勝った!)
そう確信した刹那、バシュッ―――――と何かが遠くから放たれた音がした。
ガァンッ!と言う音と共に、右手に激しい痛み。
「いっ……」
カヤは思わず短剣を取り落とした。
ガランッ、と音を立てて地面に転がった短剣。
その隣に同時にポトリと落下してきたのは、一本の弓矢だった。
「なっ、に……」
それが飛んできた方向を見たカヤは、絶句する。
一人の兵が弓を構え、カヤを狙っていた。
なんと言う事だろう。
必死に戦うあまり、弓矢を持つ兵が居る事を忘れてしまっていた。
咄嗟に、痛みの残る右手を見下ろす。
右手に痺れるような痛みはあるものの、血は出ていない。
偶然か誠か、幸いにも矢じりはカヤの右手では無く、短剣に命中したようだった。
「それ以上、動かれませんよう」
地面の短剣に手を伸ばしかけたカヤは、兵の声でビクッと動きを止める。
目の前の兵は勝ち誇ったような笑みを受かべていた。
