【完】絶えうるなら、琥珀の隙間

「クンリク様を捕らえろ!」

そんな声と共に、剣を持った総勢四人もの男達が一斉にカヤに向かってきた。

「やめろっ!」

雄叫びと共に、弥依彦が横方向から渾身の体当たりをかました。

とは言え、以前に比べると別人のように痩せた弥依彦の力では、一人をふっ飛ばすのが限界だった。


「っおい、お前等はその男を黙らせろ!クンリク様は俺が捕らえる!」

首領格らしい男が、無事に立っている残りの二人に命令をした。

幸か不幸か、たった今仲間をふっ飛ばした男が、かつての自分たちの王だと全く気が付いていないらしい。


「くっ、くそっ……!」

真っ青になりながら腰の剣を抜いた弥依彦に、砦の兵が勢い良く襲い掛かった。

「ひっ……」

思わず手で口元を押さえたカヤだったが―――――ガギィン!と響いた高らかな音に、目を疑った。

弥依彦は予想に反して、しっかりと斬撃を受け止めていた。

「こ、のっ……僕を誰だと思ってるんだ、よっ……!」

歯を喰いしばりながら耐える弥依彦は、身体全体で相手を押し負かすと、「うおおおお!」と雄叫びと共に、よろけた兵の手から剣を弾き飛ばした。

回転しながら宙を飛んだ剣は、弓を構えている兵の足元に大きな音を立てて落下する。


「油断するな!」

首領格の男が、じりじりとカヤに近づきつつ叫んだ。
弥依彦は既にもう一人の兵と激しく討ち合っていた。


(いつの間に剣を……)

一瞬、状況も忘れて唖然としてしまった。

カヤが知る限り、砦に居た頃の弥依彦は剣など振れなかったはずだが。

そう言えば、とカヤは不意に思い出す。

彼は、毎日のように剣を担いで森へ通っていた。
もしかすると一人でずっと稽古をしていたのかもしれない。


そんな事を考えている内に、兵はもうカヤの目と鼻の先まで迫っていた。

「クンリク様。どうか大人しく我々に着いて来て下さい」

ギラギラと光る剣を構えながら、慎重にカヤと距離を詰めてくる男。

「……嫌です」

カヤは懐から短剣を取り出すと、静かに構え、姿勢を落とした。

普段の通りの短剣の感触。
普段通りの構え。

にも関わらず、極度の緊張と恐怖で、足が震えているのが分かった。

「我々と戦われるおつもりですか」

兵が言った。

「ええ。私を連れて行こうとするのなら」

「それならば仕方ありません。多少の怪我はお許し下さい」

きっぱりと言った兵が、間髪入れずに剣を振り下ろしてきた。

カヤが咄嗟に刃を寝かせ気味に構えたと同時、激しく剣がぶつかり合った。

ギャリギャリギャリッ!と激しい音を立てて、兵の剣が短剣の刃の上を滑っていく。

(重いっ……!)

眉を歪ませながらなんとか耐えたカヤは、体勢を立て直そうと距離を取った。