【完】絶えうるなら、琥珀の隙間

(こんなのって……)

激しい眩暈がして、どうしようも無かった。

意識してしまえば良心の呵責に耐えられないだろうから、なるべく考えないようにしていた。

けれど今こうやって集落の惨状を見てしまったのだ。
どう足掻いても、思わずには居られない。


――――こんな事になってしまったのは、ほぼ間違いなくカヤのせいだ。





「……おい。おい、クンリク」

ぼんやりと、ただただ弥依彦の背中に付いて行っていたカヤは、ハッと意識を取り戻した。

「え?あ、何……?」

「だから、あれ蒼月のじゃないのか?」

弥依彦が指差す先を見ると、森の木の根元に、何やらコロンとした茶色い物体が転がっていた。

目を凝らして、それが何なのかを確認したカヤは、次の瞬間「あ!」と声を上げて、それに駆け寄った。


「これ、蒼月のっ……」

慌てて拾い上げたカヤは、確信した。
それは、蒼月が大好きな木製の玩具だった。

そう言えばナツナに引っ張られながら家を逃げ出した時、蒼月が手にしていたような気もする。


「ナツナ達、此処を通ったんだ……!」

嗚呼、きっと蒼月に近づいている。
我が子の欠片に会えたような気がして、カヤの心に小さな希望が湧いた。


「近くに居るかもしれない!ねえ、弥依彦、さがそう……よ……」

何気なく玩具をひっくり返したカヤは――――凍り付いた。


「……う、そ……」

玩具の裏側には、赤黒い染みがベットリと付いていたのだ。


「これ……血、か……?」

弥依彦が恐怖に慄いたように呟く。


ガクンッ――――身体中から力と言う力が抜け、カヤはその場に膝を付いた。

「そ、う……げつ……」

ガタガタと身体中が震え、言う事を聞かない手から、玩具がポトリと転がり落ちる。

嘘だ。嘘だ。こんなの嘘だ。
何かの間違いだ。そうに決まっている。

そう思うけれど、あの小さくて愛おしい指がいつも握っていたその玩具には、おどろおどろしい液体が存在を主張するかのように染みついている。


怪我をしたの?それとも、もう既に――――――?


考えたくもない最悪の結末が頭をよぎった後、カヤの思考は完全に停止した。



「っ、嘘だろ……」

ピクリとも動けないカヤの隣で、頬を引きつらせていた弥依彦は、堪え切れないように叫んだ。

「おおい、クンリク!しっかりしろよ!とにかく一旦翠に合流するぞ!」

ガクガクと肩を揺さぶられ、凍り付いていた鼓膜にその名前がのろのろと届く。