「……もしかして、集落を襲った奴ら……?」

ひそひそと囁けば、弥依彦が歯噛みしながら頷いた。

「ああ……お前が気を失っている間、何度も姿を見かけた。幸いこっちには降りてきてないけどな……」

弥依彦曰く、あれから丸々一日は経っている。
それなのにまだカヤ達を捜しているとは、何たるしつこさなのだ。


ひたすら息を潜めじっとしていると、男達は近くにカヤ達は居ないと判断したらしく、その場から遠ざかって行く。

やがて松明の炎が暗闇に完全に呑みこまれた頃、カヤ達は胸を撫で下ろしながら上体を起こした。


「……あいつ等に見覚えはあるか?翠の国の者か?」

弥依彦の質問に、カヤは首を横に振った。

「違うと思う。あの男達―――――私を『クンリク』って呼んだ」

昨夜、確かにあの男達はカヤをそう呼んだ。

その名で呼ぶ人達がどの国の人間なのか、言うまでも無い。
弥依彦も同調するように頷いた。

「恰好や装備からしても間違いないだろうな。あいつら……砦の兵だ」

膳が言うような、金目当ての賊などでは無い。
あの男達は、確かに隣国の兵だ。


「一体何のために……」

当然の疑問を口にすれば、弥依彦が考え込みながら言った。

「偶然あの集落を見つけて、訳も無く襲ってきたとは考えにくい。お前が居ると分かってて、敢えて襲ったんじゃないか」

「まさか、そんな……」

「だとしたら最悪だぞ。お前と蒼月の存在が、ハヤセミに知られているって事だ」

ぞっとしない話であった。

二年半前、律がハヤセミを欺くため、ミナトもカヤも崖から転落死したように見せかけてくれたのだ。

正直それでもうハヤセミは諦めてくれるのでは、と淡い期待を抱いていたが――――まさかこの二年半の間、執念深くカヤ達を捜しまわっていたと言うのか?


もしカヤが狙われているのだとしたら、間違いなく蒼月も狙われているだろう。

「早く蒼月の所に行かないとっ……!」

泣きそうになりながら訴えれば、弥依彦は「分かってるよ」と頷いた。

「とにかく、少しずつ移動しよう」


二人は目の前の斜面を登る事は諦め、大きく迂回をしながら、集落の方角を目指す事にした。

ひとまず、はぐれてしまったナツナ達と合流しなければならない。

とは言え、別れた場所にナツナ達が未だ留まっているとは考えにくい。

捕まっているのか、逃げ続けているのかさえ分からない状況である。

何かしらの情報を手に入れるため、集落に戻って様子を探る事にした。