【完】絶えうるなら、琥珀の隙間

腕の中の蒼月は、こんなに柔らかくて、弱くて、小さく頼りないのに。


(これが……運命なの……?)

蒼月が選んでも選ばなくても、神官として生きて行かねばならないと言う事なのか。


(……嫌、だ……)

嗚呼、果たしてそれに抗う事は出来るのだろうか――――――



「――――……きゃああぁあああぁあっ……!」


突如、絹を裂くような悲鳴が集落中に響き渡った。


「なっ……何!?」

カヤは蒼月を降ろすと、慌てて廊下に出て、庭へと続く戸を開け放った。

途端、ぶわっと部屋の中に入り込んできた熱気に、言葉を失う。



「何……これ……」

見慣れた集落のあちこちから、激しい炎が上がっていた。

轟々と燃え上がる火炎の間を縫って、たくさんの人間が蠢いている。

炎に照らされるその姿のどれにも見覚えは無い。
ただ体格からして、男だと言う事だけは分かった。

謎の男達は、丁度カヤの斜め前に立つ家の戸を乱暴に蹴り開け、中に侵入していく所だった。

ぐらり、と眩暈がした。
そこはナツナとユタが二人で住んでいる家なのだ。



「っ、」

咄嗟に部屋に戻ったカヤは、部屋の小さな棚を急いで開け放った。

その中には翠から貰った短剣が入っている。

蒼月を抱く事が多いため普段は懐に入れていないのだが、稽古の時以外は万が一のため寝所に隠してあるのだ。


しっかりと鞘に収まっている短剣を引っ掴んだカヤは、その隣に置いてあった黒くて丸い球に気が付いた。

丁度二年前、律がカヤにくれた謎の代物は、あれ以来この場所に置きっぱなしになっている。



"――――何か困った事があったら、これに火を付けて空に向かって思い切り投げろ"


あの時の律の言葉が思い出される。

考えている暇は無かった。
カヤはそれを懐に乱暴に押し込み、立ち上がった。


「――――カヤちゃんッ!」

突如背後から飛んできた金切声に、心臓が止まりかけた。


振り向くと、なんとそこにはナツナが立っていた。

激しく息が切れている。
どうやら裏口から入ってきたらしかった。

「ナ、ナツナッ……良かった……!」

「逃げるのです!早くっ!蒼月様も一緒に!」

ホッと安堵する間もなく強く腕を掴まれ、カヤは裏口に向かってぐいぐい引っ張られた。

「な、何があったの!?」

「分からないのです!いきなりあの人達が火を付け出してっ……!とにかく今は逃げるのです!」


転げるようにして外に飛び出た二人は、家の裏手にある森にそのまま飛び込んで脱兎のごとく走った。