――――――ガギィンッ!

刃と刃がぶつかり合う固い音が、穏やかな集落に似つかわしく鳴り響いた。


息をする暇すら無かった。
襲い掛かって来る刃先から必死に眼を反らさず、全ての斬撃をいなす。

激しい動きを繰り返したせいで、辺りには濛々と砂埃が立ち上っていた。

「しまっ……」

目まぐるしく動き回っていたカヤはハッとした。

砂埃によって視界が奪われ、相手の姿を一瞬見失ってしまったのだ。

その瞬間―――――ビュッ、と風を切る音がして、粉塵の先から鈍い刃が飛び出してきた。

「っ」

紙一重の所でそれを避けたカヤは、すぐに体勢を建て直し、刃が飛び出てきた方向に向かって短剣を突き付けた。

ピタッ!と両者の動きが同時に止まる。

徐々に明らかになっていく視界の中、カヤの首の真横には鋭い刃先が添えられていたし、カヤの短剣もまた、目の前の男の喉元ギリギリに突き付けられていた。



「今日は此処までにしよう」

目付きの悪く、頬に真一文字の傷がある、正にガラの悪いと言う言葉がお似合いの男――――虎松は、そう言って剣を引いた。

カヤもまた短剣を引き、背筋を伸ばして虎松に頭を下げる。

「ありがとうございました!またお願いします!」

「ああ」

素っ気なく返事をし、スタスタとその場を去って行く虎松を見送り、カヤはすぐに踵を返して走り出した。


初秋の太陽が柔らかく降り注ぐ中を駆け抜けていると、畑で作業をしていた女達が声を掛けてきた。

「今日も稽古かい?精が出るねえ」

「これ、持ってきな!丁度採れたんだよ」

そう言って、どっさりと腕の中に芋を置いてくれた女達に「ありがとう!」と言って、カヤはまた走り出す。


目指す先は、膳の家の隣に建つカヤの住居だ。

集落の人達に手伝って貰いながら建てたカヤの家は、決して大きくは無いが、立派な梁が通っていて、雪の重みにだって負けないしっかりとした造りになっている。

息を乱しながら辿り着いたカヤは、勢い良く入口の扉を開け放った。


「おお、戻ってきたか」

「おかえりなさいなのですー」

のんびりとした様子でそこに座っていたのは、膳、ナツナ、そして―――――

「かかー」

とてとてと軽い足音と共に、カヤの足に金の髪を持つ小さな影が纏わりついてきた。


カヤは両手いっぱいの芋を近くの籠に入れると、

「ただいま、蒼月《そうげつ》!」

愛しい我が子を、ぎゅうっと抱きしめた。