【完】絶えうるなら、琥珀の隙間

「多分お前が思ってるよりも、ずっと優しいお方なんだ」

あんまりにもミナトが真っすぐに言うものだから、カヤは黙り込んでしまった。

ハヤセミの事は心底嫌いだが、ミナトからすれば血の繋がった兄なのだ。

大声で「そんな訳が無い」と叫びたいが、ミナトの気持ちを考えると、真っ向から否定するのも忍びない。


「なあ、琥珀。お前はもう覚えてないかもしれないけど……」

ミナトが穏やかに口を開く。

「"胸を張って生きろ"って言ってくれたお前の母上と、"大好き"だって言ってくれたお前に、俺は救われた。本当に感謝している」

かか様の腕の中、ミズノエと共に抱かれながら笑い合った幼き日の記憶。

勿論カヤだって忘れていない。大切な思い出だ。

「俺はお前が大事だ。けれど、同じくらい兄上も大事だ」

家族の居ないカヤにとって、肉親と言う存在がどれほど大きいのかは分からない。

果たして血の繋がりとは、それほどの確固としものなのだろうか?

例えそれが、かつて己を殺そうとした相手であっても?


「俺、どうにか両国が争わなくて良い方法が無いか捜してみるよ」

けれどそう言ったミナトは、少なくともハヤセミを捨て置くつもりは無いようだった。

もうこれ以上、ミナトの意志をとやかく言う権利はカヤには無かった。

不安と寂しさを堪えながら、カヤは頷くしか無いのであった。


こうしてカヤへの説得に成功したミナトは、その日の内に皆に見送られながら集落を出て行く事となった。


「これ、おにぎりなのです。ちゃんと残さず食べるのですよ」

「この中に湿布薬と傷に良く効く軟膏が入ってるから。怪我したら悪化する前に使うのよ」

「おう。悪いな」

ナツナとユタから包みをしっかりと受け取ったミナトに、タケルが声を掛けた。

「ミナト。くれぐれも身体に気を付けるのだぞ」

「はい。タケル様も、どうかご自愛下さい」

「うむ」

頭を下げたミナトの背中を、タケルがポン、と軽く叩く。

ゆっくりと顔を上げたミナトは、必死に涙を堪えているカヤに気が付くと、片方の口角を上げた。

「元気な子産めよ、琥珀。また折りを見て此処にも来るから、その時は腹の子に会わせてくれや」

何ともミナトらしい、いつも通りの笑い方だった。

だからカヤも普段通りの顔でミナトを見送れるよう、必死に笑いながら、うんうん、と何度も頷いた。