【完】絶えうるなら、琥珀の隙間

寂しい気持ちで暗闇を見つめていると、カヤを囲っていた翠によって、ぐるりと身体を反転させられ、向かい合わせにされた。


「あんの女……カヤ、口貸せっ」

舌打ち混じりに言って、びしょ濡れの衣でゴシゴシと唇を拭いてくる。

ぶつくさ文句を垂れながら、念には念を入れてカヤの唇を拭く翠に、思わず笑ってしまった。

「何笑ってるんだよ」

訝し気に眉を寄せられるが、カヤの笑いは止まらない。

「へへ。私、律と居る時の翠、なんだか好きだな」

「俺は嫌いだ」

翠がムスッとしたように言う。

それを目にして、やっぱり、と確信する。
そうか。律と居る時の翠は、とても人間味があるのだ。

カヤは、そんな翠を見るのが好きだった。

そして翠の感情を驚くほど素直に引き出してくれる律の事も、同じくらい好きだった。


律が消えて行った方向を、もう一度見つめる。

心に侘しさは残っているものの、カヤの口元には笑みが浮かんでいた。


(きっと、また会えるよね)

生きていれば、この道の上の何処かで、必ずや。











それは律が集落を出て行った次の日の事であった。

律の事を前向きに受け止めようと決めたカヤだったが、残念ながら寂しい別れは一つだけでは済まなかった。


「ミナト!」

その報せを聞いたカヤは、慌てて膳の家の前に駆け付けた。

そこには翠、タケル、そしてミナトが居て、何かを話していた。

カヤが駆け寄ると、三人が話しを中断した。

「で、出て行くの?どうしてっ?」

てっきり集落に居続けてくれるだろうとばかり思っていたミナトは、旅用の衣を身に纏い、最低限の荷物を背中に担いでいる。

「悪いな、琥珀」

すまなそうに言ったミナトの表情に迷いなどは一切無い。

昨夜出て行った律と同じような確固な意志を感じ、カヤは愕然とした。

「ここに居てはどうだ、ミナト。正直、お前のような腕の立つ男が居てくれると、非常に助かる」

と、翠がそんな言葉を掛けた。

思わず心が躍ったカヤは期待を込めてミナトを見やったが、彼は静かに首を横に振る。

「俺は、翠様達を裏切り続けていた人間なので……翠様のお傍に仕える権利はありません」

「それでもお前は、危険を冒してまでカヤを砦から脱出させてくれただろう。カヤに対するその至誠を、俺は信用しているよ」

きっぱりと言った翠に、ミナトは小さく微笑んだ。

「ありがとうございます。ですが……俺が居ると余計な火種を産むことになりますので」

変わらないミナトの意思に、翠はそれ以上の説得は無理だと悟ったようだった。