【完】絶えうるなら、琥珀の隙間

とは言え、何だかんだしっかりと謝罪を口にした翠に、律が嘲り笑いを吐いた。

「はっ……どういう風の吹き回しだ?」

「カヤの頼みだから、致し方なくだ」

不機嫌そうに言った翠は「それからな」と続ける。

「百歩譲ってお前の事は双子だとは認めてやる」

「どうした?急に素直になって」

「……お前に対して無性に腹が立つ理由がようやく分かったからな。お前を見てると、自分の嫌な所を見ているようで苛々する」

翠の呟きに、律は声を上げて笑った。
笑い方が翠にそっくりだ。

「なるほどな。私も不思議だったが、そういう事だったのか」

「ただし言っておくけどな、俺がお前を嫌いな事には変わりないから誤解するなよ」

念を押すような翠の言葉に、律は、ふっと口角を吊り上げた。

「そこに相違は無いから、精々安心しろ」

今まで翠に見せていた笑顔とは少し種類の違う笑顔を浮かべ、律はカヤに向き直った。

「なあ、カヤ」

「なに……んむ」

唇に柔らかな何かが押し付けられ、カヤは目を瞬かせた。

「お、まえっ……!」

背中側から翠の驚愕した声が聞こえたと同時、唐突に振ってきた口付けは、これまた唐突に去って行った。

律の感触が残る唇に触れながら、ぽーっと頬を染めていると、

「ふざけるな!何してんだよ!」

足音荒く近づいてきた翠が、カヤを腕で囲い律から遠ざけた。

「出て行ってやるんだから、口付け一つ許すくらいの器量は見せろ」

平然と言ってのけた律の言葉に、呆けていたカヤは、ハッとして意識を戻した。

「や、やっぱり行っちゃうの……?」

もう律を止めれないとは分かっていながらも、悪あがきをする。

「そう泣きそうな顔をするな。気が向いたら会いに来るよ」

そう言った律は、ふと何かを思い出したかのように懐に手を入れた。

「そういえば、これをカヤに渡そうと思ってたんだ」

翠の腕の隙間から手を差し出せば、落ちてきたのは拳ほどの大きさの黒くて丸い塊だった。

ずしっ、とそれなりの重量がある塊の頂点からは、何やら紐が飛び出している。

律はその紐を指さしながら言った。

「何か困った事があったら、これに火を付けて空に向かって思い切り投げろ。いつでも駆けつける」

「わあ、ありがとう……」

しげしげとその玉を見つめている内に、律はカヤに背を向けて走り出していた。

「じゃあな、カヤ。身体に気を付けるんだぞ」

ふわりと微笑んだ律は、次の瞬間には暗い森の中へ飛び込んだ。

「またね、律!」

慌ててその背中に向かって叫ぶ。

白い背中は、あっという間に闇夜に紛れて見えなくなってしまった。