【完】絶えうるなら、琥珀の隙間

「律に謝るまで、絶対許さないからね!」

べーっと舌を出して、カヤは翠を置き去りにして走り出した。

酷く傷ついているであろう律が心配で仕方が無かった。



「律!」

集落の外れで、律の白い後ろ姿を見つけたカヤは急いで駆け寄った。

彼女は今まさに森の中へと姿を消そうとしていた所だった。

「カヤ……」

振り返った律の顔があんまりにも弱々しいので、カヤは無我夢中でその腕を掴んだ。

「どこ行くの!?」

「……すまないな。私がここに居ると、あいつが気に入らないだろうから出て行くよ」

そう言って柔くカヤの手を振りほどいた律の身体を、ぎゅっと抱きしめる。

律を一人にさせたく無かったし、何よりカヤが律と離れたくなかった。

「お願い……行かないで……」

涙交じりに訴える。

律はしばらく黙って抱き締められていたが、やがてポツリと口を開いた。

「……私が山を降りてきたのはな、この憎い国も、神官だとか言う馬鹿げた因習も、全て壊したかったからなんだ。その過程で、もし必要ならば……翠も殺すつもりだった」

恐ろしい言葉に肩が強張る。
けれど律は、慄いたカヤのその肩を優しく抱いた。

「でもこの国にも、翠の隣にも、カヤが居るから……もう出来ないな」

そう苦笑いを零した律に、目を見開く。

「律……」

ほろりと流れた涙を、ぐっと拭い、カヤは律を真っすぐに見つめた。

「私は律が好き。もしも翠が貴女を信じれなくても、私は貴女を心の底から信じる。だから、ねえ、お願い……出て行くなんて言わないで……」

「……私もカヤが好きだよ」

同じ言葉を口にしたはずなのに、律の言葉には侘しさが滲んでいた。

ああ、彼女は行ってしまうつもりなのだ。
どうしてもそう分かってしまい、悲しさで眼を伏せる。

「皮肉だが血は争えないものだな。同じ人間を慕ってしまうとは」

そんなカヤの頬に優しく触れた律は、

「――――なあ、翠」

カヤの背後に向かってそう呼びかけた。


振り向けば、そこには息を切らせた翠が立っていた。

髪からも衣からも、ポタポタと引っ切り無しに水が滴っている。

「……カヤ、悪かった。お願いだから戻ってきてくれ」

バツが悪そうにそう言った翠を、カヤは静かに睨む。

「謝るのは私じゃないでしょう」

翠が仕方無さそうな溜息を付くと、不服そうな表情を浮かべながらも腰を折った。

「律。酷い事を言って申し訳無かった」

早口で言い終えた翠は、すぐに顔を上げる。