【完】絶えうるなら、琥珀の隙間

「従兄弟同士とか……ううん、違う……絶対にもっと近い……」

そう、例えば。

「ねえ、貴女は――――翠と兄妹なんじゃないの?」

この世の誰よりも、同じ血を持つ人間なのでは、と。



カヤの言葉によって、その場は水を打ったように静まり返った。

「おい……何言ってるんだよ、カヤ」

そんな空気の中、翠が渇いた笑いを漏らす。

「冗談は止めてくれ。こいつと俺の血が繋がってるわけが……」

「何故そう思った」

しかしそんな翠の言葉を、律が遮った。

律はカヤの考えを一蹴するわけでも無く、至極真面目な眼でカヤを見つめている。


カヤは考えに至ったまでの理由を、ゆっくりと口にした。

「だって、貴女は翠が男だって初めて会った時から知っていた。今まで誰も気が付かなかったのに……初見でそれを見破れるはずが無い」

そしてそれは当てずっぽうでも何でも無かったのだ。

カヤの懐妊が発覚した時、真っ先に父親が翠だと言い当てたのもまた、律だった。


「それに」と、カヤは続ける。

「翠も律も、そうやって並ぶと凄く似てる。私、一瞬だけど貴女を翠と見間違えた事もあったの」

初めて律と馬小屋で会った日の事を思い出す。

綺麗だ、と、そんな賛美が無意識に口を突いて出てきたあの日を。

白い月光を浴びながら目の前に現れた彼女の美しさを、翠の美しさと見間違えた。


(ああ、だからなのかもしれない)

理由を話していく内に、自分の中の疑問がするすると解けていく。

ずっと不思議だった。
どう見ても怪しい彼女をなぜだか疎めなかった己の感情が。

「貴女が纏う空気は、翠と一緒だ」

触れる事さえ躊躇してしまうほどに儚く、繊細で、けれど中を窺えば凛とした芯が通っている。

カヤはそれが何よりも大好きだった。
だから律を厭うなんて、出来やしなかったのだ。

「私―――きっと貴女に惹かれてた」

こんなにも愛おしい人の生き写しに、どうして焦がれずに居れようか。



律は真っ白い睫毛を三度瞬かせると、参ったように眉を寄せた。

「……まさか気付かれるとはな」

はあ、という物憂い気味な溜息、翠が息を呑む音。

それらが重なって融けた後、律は真っすぐに頷いた。


「そうだ。私は、翠の双子の姉だ。そして本来ならば―――――この国の神官となるはずだった人間だ」


真実を告げた律の瞳が、立ち尽くしている翠を向いた。

何処かに色を忘れてきてしまったかのような灰色が、片や混じり気の無い黒を映す。