【完】絶えうるなら、琥珀の隙間

カヤは二人を止めに入ろうとしたが、タケルに「待て待て」と止められた。

二人は今や互いに胸倉を掴み合いながら、激しく言い争っていた。

「この分からず屋!いい加減に現実を見ろ!」

「それで何が解決するのか言ってみろ!第一、余所者のお前が知ったような口を出すな!」

「わざわざ口を出して、お前の眼を覚まそうとしてやってるんだろうが!感謝しろ!」

「だからそれが余計なお世話だって言ってるんだよ!」

今にも二人が刃を抜きそうな雰囲気なので、カヤはたじたじと後ずさってしまった。


過去に、翠とタケルが口喧嘩をしている所を見たことはある。

しかし目の前の意見のぶつかり合いは、それとは比にならないくらい激しかった。

律も翠も、自分の主張を一切曲げようとしないので、二人の怒りは目に見えて募っていく。


"同族嫌悪"―――――いつだったかチラリと思ったその言葉が、再び頭に浮かんだ。


(やっぱり似てる)

だがそう感じたのは、性格に対してでは無かった。

(……ううん、同じだ)

カヤは、間近で睨み合っている二人の横顔から眼が離せなかった。


夜の闇を取り込んだような真っ黒な翠の髪。
そして一切穢れの無い色をした真っ白な律の髪。

全くもって正反対の色を持つ二人だが、寧ろ違うのはそれだけだった。

怒りで歪められている眉の形も、互いを睨み付ける瞳の鋭さも、それを縁どる睫毛の長さも、眼を見張るほど真っ赤な唇も。

それら全てが、とても似ていた。


―――――まるで、一人の人間を反転でもしたかのように。





「良いか!歩みを止めれば全てが終わる!」

翠が激しい口調で言った。

「どれだけ困難な意志だと分かっていても、追い続ける必要があるんだよ!一体お前に何が分かるって言うんだ?民の命を預かっていないお前に、何が!」

空気を切り裂くような翠の叫びに、律が大きく眼を見開く。

その一瞬、確かに律の瞳に憂いが浮かんだ。

律が酷く傷付いた。

それが分かった瞬間、カヤは頭の中に稲妻が走ったような衝撃を受けた。


「翠!律!今すぐこっち向いて!」

腹の底から叫んだと同時、二人が全く同じ動きでカヤに顔を向けた。

その動作だけでは無い。

"何だ?"とでも言いたげなその表情までも、本当に驚くほど似通っていた。


(やっぱり……)

確信したカヤは、ゆっくりと二人に歩み寄りながら、まじまじと律の顔を見つめる。

「律……もしかして翠と同じ血筋だったりしない?」

その端正な顔を間近で覗き込む。
ああ、驚愕したような表情すら翠と同じだった。