だが逆に考えれば、翠がハヤセミの国とも交渉を終わらせていれば、必ずや高官達は納得するに違いない。


「俺は将来的にこの国を神力に頼らず治めたい。そのためには―――――やるしかない」

出来る、出来ない、では無い。
翠にはもうその道しか残されていなかった。

きっぱりと言った翠の決意は、その瞳からひしひしと伝わってきた。

「やりましょう」

タケルが力強く言った。

「私めも微力ながらお力添え致します」

そう膳が言って、隣のミナトも賛同するように小さく頷く。


この場の全員の意見が一致した――――かのように思えた。

「……無理だろう」

律がその否定を口にするまでは。


「神力に頼らず国を治める?お前は、今まで続いてきた腐った習慣を容易に崩せると本気で思っているのか?」

非礼とも言える律の意見に、翠は分かりやすく不快感を顔に示した。

「……簡単では無いだろうな」

「ああ、そうだ。簡単じゃない。それどころか不可能だぞ。神官が力を失った今、この国はハヤセミに滅ぼされる。大量の死人が出る前に、さっさと隣国に統制されてしまうべきだ」

律は翠に人差し指を付きつけながら、強い口調で主張した。

翠が嫌いだからわざと反対の事を言っている、と言う様子でも無い。

律は本当にそう思っているのだろう。

だがそれは、翠を激高させる言葉には間違いなかった。

「抗わずに諦める事は愚かだ」

翠が静かに言った。
彼は、心底軽蔑しきったような眼を律を見据えていた。

「よってお前は愚か者だ。口を慎んどけ」

冷ややかすぎる言葉に、律が苛立ったように眉を歪ませた。

「こっ、の……人が心配してやってるのに……!」

「正体も何も分からないお前に心配される筋合いは無い」

ズバッと一刀両断した翠は、更に続ける。

「それに、カヤの逃亡に手を貸してくれた事に関しては礼を言うが、俺はお前の事を一切信用していないからな」

『一切』の部分を強調しながら、翠が言い放つ。

堪忍袋の緒が切れたらしい律は、怒りを通り越して嘲り笑いを吐き出した。

「はっ……お前ほど癪に障る男は、この世に居やしないだろうよ」

「奇遇だな。全く同じ意見だ」

「……やはりお前はあの時殺しておくべきだったな」

ゆらりと律が立ち上がる。

「やるなら受けて立つぞ」

同じく立ち上がった翠が、律の胸倉を乱暴に掴んだ。


「ちょ、ちょっとっ……!」

呆然としていたカヤは、慌てて腰を上げた。

ああ、もう。
なんだってこの二人はこんなに相性が悪いのだ?