次の日、長らく姿を見せなかった律が集落に戻ってきた。

「律!おかえり!」

報せを聞いたカヤは、すぐに律に会いに行った。

彼女は少し疲弊したような顔付きでミナトを会話をしていたが、カヤが駆け寄ると口元を緩ませた。

「ああ、カヤ。ただいま」

「良かった……なかなか帰ってこないから、何かあったのかと思ったよ」

カヤとミナトの死を偽装するべく出て行った彼女は、それっきり音沙汰無しだった。

ミナトは『律なら大丈夫だ』と言っていたのだが、やはりなかなか戻って来ない彼女が心配だったため、こうして無事に戻ってきてくれた事にとても安心した。


「心配かけてすまなかったな。色々としていたら遅くなってしまった。ひとまず現状分かっている事を報告するから、皆集まってくれないか」

こうして、カヤ、翠、タケル、ミナト、膳、そして律の六人は膳の家の一室に集合した。


律は集落を出てすぐ、カヤとミナトから預かった衣をズタズタに引き裂き、獣の血で汚した後、切り立った崖の下に分かりやすく置いておいたらしい。

二人が誤って崖から落ち、その遺体は無残にも獣達によって喰われてしまったように見せるためだそうだ。

聴いているだけでぞっとするが、確かにそれなら遺体が無くても怪しまれる事は無さそうである。



「しばらく近くに身を隠して様子を窺っていたが、狙い通り砦の追手がそれを見つけてくれた。今頃はハヤセミにカヤ達の死を報告している最中だろう」

律の言葉に、カヤは安堵の息を漏らした。

これでカヤもミナトも、ハヤセミに追われる事はなくなるだろう。

しかし、何故だかカヤ以外の人間の顔は暗いままだった。

「……兄上は用心深いお方です。本当に俺たちが死んだのか徹底的に調べ上げるでしょう。恐らくいつかは虚偽だと気が付かれるのではと思います」

ミナトの意見に、律も頷く。

「ミズノエの言う通りだ。私の細工はあくまで時間稼ぎに過ぎない。万が一に事が露見したとして、ハヤセミが黙っているとも思えない。十中八九、戦を仕掛けてくるだろうな」

思わぬ言葉に、カヤは狼狽えた。

「で、でも、私達が生きているって知られなければ大丈夫なんだよね……?そうしたら戦なんて……」

そんな子供じみた淡い期待を、隣の翠に向かって投げかけた。

大丈夫だよ、と言って安心させて欲しかったが、しかし翠の表情も律同様に険しい。

「"絶対"なんてものは無い。常に最悪の結果を予想しながら動くべきだ」

どうやら状況に置いてけぼりになっているのはカヤだけだった。

タケルもミナトも膳も律も、翠に同意するように頷いたのだ。