「家臣の大半には親がおらんくてな。常識も無ければ善悪の区別もつかぬような悪たればかりだったが……それを拾って育てた。一人拾ったら、許可も無く仲間を引き連れてきおって、いつの間にやら随分増えてたわい」

思い出したように膳が苦笑いする。

憎まれ口を叩く膳の言葉の裏に、家臣を思う情がはっきりと表れていたので、カヤは小さく笑った。


しかし、膳の顔がふと翳る。

「大半は、あの時に討たれてしまったがな……私が殺したも同然だ」

最後の言葉が、重く胸に圧し掛かった。

それはカヤを攫ったあの日の事だろう。

ミナトの手によって、そして屋敷の兵達の手によって、膳の家臣は多くが命を落としたと聴いている。


カヤは何と言って良いか分からず、膳から少し視線を逸らせた。

先ほど目の前を駆け抜けて行った子供たちが、森の淵の木に登って遊んでいる。

どうやら誰が一番高くまで上がれるか勝負しているようだ。

微笑ましいはずのその光景を、カヤも膳も黙って眺めた。

「……病気も怪我も無く、そして死ぬ事も無く、無事に老いていく事は難しい」

やがて膳が静かに口を開く。

「人間の人生がいかに重いのか、この歳になってようやく分かってきたわい」

すくすくと育っていく愛すべき子供たち。

けれど膳の言う通り、何の弊害も無く健やかに大人になると言う事は、それだけで奇跡なのかもしれない。

――――だからこそ、たった一人の人生には素晴らしい価値がある。


「お前は、儂が生きていて良かった、と言っていたが、私もあの時お前を殺めなくて良かったと思っている。わしは死んでいった家臣の未来だけでなく……二人の人間の未来をも断つ所だった」

二人。それはカヤと、そしてこれから産まれてくるであろう腹の子だろう。

カヤは、おずおずと膳を見つめた。

膳は俯いたままカヤと視線を合わせようとはしなかったが、それでもはっきりとそれを口にした。

「……すまなかったな」

その確かな懺悔の言葉を。


意表を付かれたカヤは、一瞬言葉を失い、それからゆるゆると視線を落とした。

「……私も、貴方に謝らなければいけません」

「何をだ?」と膳が訝し気な声を出す。

「結局私は貴方の忠告を聞かず、翠と共に生きる道を選択してしまいました」

その結果、翠は力を失ってしまった。

翠もカヤも今は前を向いて生きてはいるが、それでもやはり心のしこりは中々取れない。

否、それどころか確実に大きくなっている。