「さてと、あたし等は仕事に戻ろうかねえ」

「客人に働いて貰ってばっかりなのも悪いしね」

黙々と働いているミナトを見て、女達が「確かに」と笑う。

「ありがとうございました。大事に使わせて貰います」

カヤは両手いっぱいの衣を抱えながら、深々と頭を下げた。

「良いって事よ。ま、初めてのお産で心配だろうし、困った事があったら何でも聞きな」

「そうそう。知恵は無いけど経験だけはあるからね」

既に数人の子供を立派に育て上げている彼女達は、頼もしい科白を投げかけ、畑仕事に戻って行った。

その後ろ姿を見送っていると、膳が口を開いた。

「……腹の調子はどうなのだ?」

「お陰様で特に問題は無いです」

ここ数日、安静にしているためか、あの痛みは一切感じていなかった。

カヤは腹を撫でながら、穏やかな気持ちで集落を眺めた。

女達はお喋りに花を咲かせつつも、せっせと畑仕事にいそしみ、その傍らでは子供たちが追いかけっこをしている。

子供達のはしゃぐ声が、風に乗って優しく二人の元へと届いてきた。

翠の屋敷がある村のように発展はしていないが、この集落の時間はとてもゆったりと流れる。


「……此処は良い所ですね。凄く落ち着きます」

自然とそんな言葉を口にしていた。
それほど安寧を絵に描いたような幸福な景色だったのだ。

「儂一人だったら、ここまでの集落にはならなかっただろうな。家臣たちのお陰だ」

膳もまた、集落の様子を見つめながらそう言った。

かつて国を追放された膳、そして家臣達とその家族は、あの村を逃れてこの地に辿り着いたそうだ。

偶然にも家造りの知識を持っている家臣が居たため、全員で協力し合いながら少しずつ集落を作り上げていったらしい。

やがてこの集落が安心して住めるような形になったのを見届けた後、ほとんどの男達は隣国へ出稼ぎに行ったため、この集落は、その妻である女達が切り盛りをしていた。



「あ、膳様と金の髪のお姉ちゃんだぁ!」

パタパタパタ、と言う軽い足音と共に、カヤと膳の前を子供たちが手を振りながら駆け抜けて行った。

「あまり遠くへ行くでないぞ!」

「はぁーい!」

膳が呼びかけると、子供たちは元気の良い返事をして森の方へと向かって行った。

心配そうにその姿を見つめている膳に、カヤは思わず口元を緩める。

「まるで家族ですね」

子供たちを見守る瞳は、可愛い孫を見つめる爺のようだった。

「……私にとっては、集落の者は全員家族のようなものだ」

膳が意外な事を言うので、カヤは驚いた。