次の日の昼頃、翠とタケルは集落を出て、一旦屋敷へと戻って行った。
翠達は、カヤの救出の助太刀をするため、急遽国に戻る日を一日ずらしたそうだ。
二人が戻って来ない事を心配した高官達が捜索を手配してしまう前に戻らなければ、と言う理由からだった。
膳は、もう少しカヤを集落に置いてほしい、と言う翠の願いを快く受け入てくれた。
そのためカヤは、ミナト、そして弥依彦と共に翠が戻るまで集落でお世話になる事となった。
翠は出発の間際まで、カヤを集落に残していく事を心配していた。
カヤも同じように、また翠と離れてしまう事が不安でたまらなかった。
勿論翠と共に戻りたいが、そうもいかない。
崖から転落死してしまったように、律が手配してくれている最中なのだ。
くれぐれもカヤを頼む、とミナトに念入りにお願いをして旅立って行った翠を、寂しい気持ちで見送った。
「……何をしておる?」
春の足音を感じる陽気の中、井戸の傍らに居たカヤ達に、膳が訝し気な様子で声を掛けてきた。
「ああ、膳様。この子ってば衣が全然無いって言うもんだから、あたし達の古くなったものをあげてたんですよ」
カヤは今、村の女達三人達と井戸端会議をしていた所だ。
話しの流れで、実は衣が一着しか無いと話したところ、全員が全員、家から不要になった衣を持ってきてくれたのだ。
この集落に来てから既に五日が経っていた。
膳の家臣と、その妻や子供達が身を寄せ合って隠れ住んでいると聴いていたため、内向的な人達が多いのかと思っていたが、寧ろ真逆だった。
集落の女たちは、はつらつとしていて、良い意味で男勝りな人達ばかりだった。
この髪を初めて見た時はもちろん驚いていたが、カヤが見た目を除けばそこら辺に居るようなただの小娘だと分かると、とても友好的に接してくれた。
初めこそ警戒していたカヤとミナトだったが、全く持って住人からの敵意が感じられないため、過度な警戒は疲れるだけだから止そう、と言う事で意見が一致した。
そんな事もあり、ミナトは今、雪で壊れてしまった近くの家の屋根を修理している。
この集落の男達は出稼ぎに出ている者がほとんどで、男手は貴重らしい。
働きぶりが真面目なのと、加えて力持ちなので、ミナトは女達に重宝されていた。