【完】絶えうるなら、琥珀の隙間

何だか無性に疲れてしまった。

カヤが、よっこらしょ、とその場に腰を下ろすと、律が不機嫌そうに鼻を鳴らした。

「ほら見ろ、言っただろ。冷徹男だって。本当に腹立つ男だな……いつか必ず決着を付けてやる」

忌々し気に呟きながら翠が消えて行った方角を見つめる律を、カヤはまじまじと見上げた。

その視線を感じ取った律が、戸惑ったように眼を瞬く。

「な、なんだ?」

「うん……何か不思議なんだよね。どうして翠は、律に対してあんな風なんだろう……」

ミナトをも許すような翠なのに、なぜ律には厳しい物言いしかしないのか。

例え内心嫌っていたとしても、そんな態度は表に出さなそうな人なのだが。

「知らん。根本的に性格が合わないんだろ」

苦虫を噛み潰したような表情で、律が肩を竦めた。


まあ確かに性格の相性がよろしくないのは、見ていれば分かる。

しかし、なんと言うか、性格自体は似ている気がするのだ。

(むしろ同族嫌悪に近いような……)

うーん、と考え込んでいると、律が目の前にしゃがみ込んできた。

「ところで腹はどうだ?大丈夫か?」

「あ、うん。じっとしてると収まるみたい」

腹を撫でながら答える。

随分と痛みは少なくなっていて、何ならすっかり忘れていたほどだ。

「それなら心配無さそうだな。また痛くなったらすぐに言ってくれ」

「ありがとう」

礼を言ったカヤは、ふと気になっていた事を口にした。

「ねえ、律は何処で医書なんて読んだの?」

「住み家にあったんだ。医書の他にも色んな書物があったぞ。多分、数百ほどは」

「それ……全部読んだの?」

まさかと思い尋ねれば、律が何てこと無いように頷いた。

「読んだな」

カヤは白目を剥き掛けた。
ひい。信じられない。

「わたし、絶対無理だ……」

「読んでみると意外にあっという間だぞ。読みたかったら持ってくるが」

結構です、と激しく首を振ると、律は「そうか?」と首を傾げた。

「大陸からの書物も多くあったし、なかなかに興味深いと思うんだがな……」

思いの外に残念そうな表情を浮かべるので、カヤは何だか申し訳なくなり、慌てて話題の矛先をずらした。

「そ、そう言えばさ、大陸からの書物って貴重なんだよね?どうやって集めたの?」

翠の部屋にも溢れんばかりの書物があるが、流石に大陸から渡ってきた書物はそこまで多くは無い。

大陸の書物は先駆的な内容の物が多い分、需要も高いので、なかなか出回らないのだ。