【完】絶えうるなら、琥珀の隙間

「と、取り込み中悪いが……」

そんな感動的な空気の中、遠慮がちな声が場を割って入ってきた。

「翠、お前……男だったのか!?」

全員が声の持ち主を振り返る。

その瞬間、カヤは弥依彦がこの場に居る事を綺麗さっぱり忘れていた事に気が付いた。

カヤと翠は顔を見合わせた。

「あーっと……何故ここに弥依彦殿が?」

「ご、ごめん……私が連れて着ちゃって……」

おずおずと白状すると、翠は「カヤが?」と眼を丸くした。

正直ごもっともすぎる反応である。

翠は一瞬考える素振りを見せると、

「……余計な事を口走られても困るな」

そう呟き、弥依彦に向き直った。

「弥依彦殿。今見た事、知った事は他言無用にして頂きたい。秘密を守るならば命の保証はするが、如何する?……まあ、選択の余地も無いと思うが」

付け加えられた言葉は、何やら不穏な色を漂わせていた。

意外にも弥依彦もそれを敏感に感じ取ったらしかった。

厚い瞼に覆われた小さな眼が、恐る恐る、と言ったように翠の腰の剣を向く。

翠の言う通り、王の座を追われ、国から脱走し、武器も後ろ盾も何一つ無い弥依彦に残された道は一つしか無かった。

「わ、分かった……」

弥依彦は、こっくりと頷いた。

「話が早くて助かる」

ニッコリ優雅に微笑んだ翠に「こんなの詐欺だ……」と弥依彦が打ちひしがれたように呟いたのだった。




ひとまず、吹きさらしのその場に居続けるわけにも行かず、一行は何処か休める場所を捜して移動する事になった。

とは言え、砦を背にして真っすぐ進めば、やがて川にぶち当たるだけだ。

そのため進路を右に変え、翠の国側に向かうようにして森を進んだ。

季節は春へと移り変わっている最中とは言え、凍えるような寒さだ。

しかも真夜中な上、足元に残る雪のせいで非常に歩きにくく、カヤはうっかり転んでしまわないよう細心の注意を払う必要があった。

良いとは言い難いそんか環境下なうえ、久しぶりにまともに外を歩いたせいだろうか―――――昼間感じた腹の痛みが、じわじわとカヤに襲い掛かり始めていた。

初めは気のせいかな、と思える程度だった。

しかし痛みは徐々に強さを増して行き、やがてどうしても耐え切れなくなってしまったカヤは、足を止めてしまった。


「うー……」

膝に手を付いたカヤに、後ろを歩いていた翠が慌てて駆け寄って来る。

「どうした!?大丈夫か!?」

「あ、うん……ごめん、ちょっとお腹が痛いだけ……大丈夫だよ。行こう」

なかなかに痛いが、昼間に倒れてしまった程の激痛では無い。

根性でどうにか歩けそうだったため、そう言って身体を起こしたが、

「いや、駄目だ。頼むから動かないでくれ」

翠がそれを制した。